元ゴールドマン・サックス。この肩書きを聞くだけで、「自分とは別世界の人」に見えてきます。
でも、この人のAIの使い方を知ってから、その印象が完全にひっくり返りました。
田中渓さん。
上智大学の理工学部物理学科を、学科首席で卒業。53回の面接を突破して、2007年にゴールドマン・サックスへ。投資部門で500件を超える案件に関わり、実際に実行したのは60件以上。動かした投資規模は約4000億円、企業価値ベースでは1.2兆円を超えます。最終的にはマネージング・ディレクター(役員クラス)として、投資部門の日本共同統括まで務めた人です。勤続17年。
経歴だけ並べると、完全に「雲の上の人」です。
その田中さんが、あるインタビューでこう語っています。
かつて3週間かかっていたリサーチと分厚い資料作成が、AIと組み合わせたら1時間ほどで片づくようになった。
3週間が、1時間。
桁がおかしいですよね。大げさな話に聞こえます。でも、本人が実際に語っている話です。
ここまで聞くと、多くの人はこう思います。「元エリートで、頭のつくりが違うんでしょ」と。
でも、引っかかったんです。
田中さんのAIの使い方を実際にたどると、拍子抜けします。やっているのは、才能でも裏技でもありません。誰でも今日から真似できる、地味な"型"の話でした。
長くなるので、後で見返したい人は保存推奨です。
なぜ、多くの人は「便利ツール」で止まるのか
まず、田中さんと普通の人の差がどこにあるのか。ここを押さえると、7つの手法が全部つながります。
多くの人は、AIを「賢い検索」として開きます。質問を投げる。答えをもらう。終わり。便利ではあります。でも、それは他の誰にでもできる使い方です。AIが、ただの情報の自動販売機になっている。
田中さんがAIに見ているのは、そこじゃありません。リサーチから、仮説づくり、意思決定の支援、資料の自動作成まで。この一連を、ひとつの流れとしてAIに任せています。AIを「たまに頼る道具」ではなく、「仕事の土台そのものを組み替える相棒」として置いているのです。
検索の代わりに使う人と、判断のスピードを上げる装置として使う人。ここで天と地ほどの差がつきます。
彼の使い方を貫くものを、僕は2つに絞れると見ています。ひとつは「型化」。自分の頭の中の判断プロセスを、言葉にしてAIに移す。もうひとつは「圧縮」。同じ質を、何分の1かの時間で出す。この2軸を頭の隅に置いて、7つを見ていってください。
手法① 判断の「型」を、先にAIへ渡す
最初が、一番効きます。そして、ほとんどの人がやっていない一手です。
あなたは仕事で迷ったとき、毎回ゼロから悩んでいませんか。「この案、進めるべきか」「この商品、出すべきか」。そのたびに、頭の中がぐちゃぐちゃになる。あるあるですよね。
田中さんは違います。投資の意思決定に使う「型」を先に決めて、AIに覚えさせている。そこに、集めた情報と自分の仮説を流し込むだけで、判断のたたき台が返ってくる状態を作っています。毎回ゼロから考えないから、速い。
これは投資家だけの話じゃありません。あなたが繰り返している判断ほど、型にできます。一度だけ言葉にして、AIに渡す。まず、こう伝えます。
1これから僕の意思決定を手伝ってください。先に判断の"型"を渡します。以後、案件を投げたら、必ずこの4つで評価してください。2①需要:本当に欲しい人がいるか(具体的に誰か)3②勝てる理由:他の人より、僕がやる意味はどこにあるか4③最悪のケース:外したとき、何を失うか5④最初の一歩:今週中に手を動かせる、最小の行動は何か6各項目、3行以内で。
あとは、迷っている案をそのまま流し込むだけ。需要・勝てる理由・最悪のケース・最初の一歩が、埋まった状態で返ってきます。
そこで僕がやるのは、「④の一歩を、もっと小さく。今日30分でできる粒度にして」と赤を入れること。ここで初めて、判断が前に進みます。
AIに0を1にさせて、人間が1を10にする。順番を逆にしてはいけません。
この型を持っていない人は、毎回ふりだしに戻って、同じ悩みを一生くり返します。あなたは違うはずです。
手法② リサーチは、"前の晩に仕込む"
冒頭の「3週間→1時間」。あの正体が、これです。
田中さんは、AIのディープリサーチ(AIが自分でネットを調べ抜いて、レポートにまとめる機能)を、前の晩に走らせておく、と語っています。翌日、お風呂の時間に1時間〜1時間半かけて、それを一気にインプットする。自分が寝ている間に、下調べが終わっている状態を作っているわけです。
多くの人は、必要になった"その場で"検索を始めます。だから、調べもので時間が溶ける。田中さんは、リサーチを「あとで受け取るもの」として、先に仕込んでおく。ここが決定的な差です。
今日からできます。夜、寝る前にこう投げておくだけです。
1次のテーマを、明日の朝までにディープリサーチでまとめておいてください。2テーマ:〇〇3知りたいのは、①今わかっている事実と数字 ②賛成・反対それぞれの言い分 ③根拠になった一次情報のリンク。4結論は出さなくていいです。判断の材料だけ、箇条書きで並べてください。
朝、コーヒーを飲みながら結果を眺める。それだけで、あなたの一日は"もう調べ終わった状態"から始まります。
手法③ 声で話して、書く時間を10分の1にする
型で判断を速くしたら、次は「書く」時間を削ります。
田中さんは、文章作成にAIの文字起こしをフル活用しています。A4用紙5枚分のアイデアを、口頭で2分ほど話す。それをAIが瞬時に文字にして、整理する。これで、文章を打ち込む時間をおよそ10分の1に縮めていると語っています。
ポイントは、思考を止めないこと。キーボードを打つ速さに、頭の速さを合わせにいかない。話しながら考えて、整えるのはAIに回す。
スマホの音声入力で吹き込んだ、ぐちゃぐちゃの独り言を、こう渡します。
1以下は、僕が音声入力で話した整理前のメモです。話し言葉のままなので、意味は変えずに、順番だけ整えて、要点3つと、それを説明する短い文章にまとめてください。僕の言い回しや口ぐせは、消さずに残してください。
「僕の口ぐせは残して」の一文が効きます。これが無いと、AIは自分の均質な文体に上書きして、あの"AIっぽい文章"になる。
正直に言うと、この記事の骨組みも、僕は歩きながら音声で吹き込みました。「さあ書くぞ」という一番重い一歩を、AIに肩代わりさせる。それだけで、着手のハードルが激減します。
手法④ 指示は「中学生に教えるように」書く
道具の使い方がわかっても、指示が雑だと、出てくるものも雑になります。ここは田中さんの言葉が、そのまま効きます。
彼は、複雑なことでも中学生や高校生に教えるように、具体的で明確な指示を出す、と語っています。「いい感じにやって」ではなく、前提も条件も、相手が何も知らない前提で書く。
差が出るのは、この一点です。
- ✗「副業でブログを始めるには?」
- ◯「会社員が、副業でブログを始めたい。使える時間は平日1日1時間。ジャンルはまだ決めていない。この条件で、最初の1ヶ月にやることを、優先順位をつけて一緒に決めてほしい」
同じAIでも、返ってくるものがまるで別物になります。相手を、賢いけれど事情を知らない後輩だと思って、背景から渡す。それだけで精度が跳ね上がります。
面倒なら、指示の頭にこの一文を足すのが楽です。
1この作業を精度高くやるために、あなたが僕に確認しておきたいことを、先に5つ質問してください。僕が答えてから、着手してください。
AIに、先に質問させる。すると、自分が渡し忘れていた前提が、自然に埋まります。
手法⑤ ロールモデルをAIに「憑依」させる
指示の精度を上げたら、今度は視点を増やします。一人で考える限界を、AIで超えにいく手です。
田中さんは、いろんな分野のロールモデルの考え方や表現のスタイルをAIに覚えさせ、その視点から多角的に分析させています。自分一人の頭では届かない角度から、意見をもらう。
一人ブレストの弱点は、視野が自分の外に出ないこと。そこを、AIに別人格を憑依させて埋めます。
1今から僕の企画に、3人の立場で順番にコメントしてください。2①疑り深い投資家(甘い前提を全部突く)3②面倒くさがりの読者(続きを読む気になるか)4③1年後の自分(これは資産として残るか)5それぞれ、良い点を1つと、厳しい指摘を1つだけ。
一人で、複数人の会議を回している状態になります。返ってきた指摘に、さらに「②の読者を納得させるには、最初の3行をどう変える?」と重ねる。この往復を数回するだけで、企画の穴が驚くほど埋まります。
ただし、AIの意見を鵜呑みにはしない。あくまで、論点を洗い出す装置です。最終判断は、自分が握る。
手法⑥ 1つのAIに、全部やらせない
ここは、田中さんの使っている道具を見ると分かります。
彼が挙げているのは、ChatGPT、Claude、Perplexity、そして音声入力のNotta。つまり、1つのAIに全部を任せていない。仕事の種類ごとに、得意なAIを使い分けているんです。
多くの人は、いつも同じ1つのAIに何でも聞きます。でも、それぞれに得意分野がある。ざっくり、こう振り分けるだけで質が変わります。
- 調べもの・一次情報集め → Perplexity(答えに出典リンクが付く)
- 壁打ち・長い文章の整理 → ClaudeやChatGPT
- 声の文字起こし → NottaやClaude
全部を1つでやろうとすると、どれも中途半端になる。用途で持ち替える人は、その分だけ精度で先に行きます。
いきなり全部そろえなくていい。まずは、いつものAIに1つ、リサーチ用のAIを足す。そこからで十分です。
手法⑦ 自分を「コンテンツ化」して、AIに食わせる
最後は、AIの精度そのものを、あなた専用に引き上げる話です。
田中さんは、インタビューで「記録しておくことの大切さ」を繰り返しています。むしろ、過去を記録してこなかったことを"もったいなかった"と語っているほどです。自分の考え・判断・言葉を書き残し、AIに渡せる状態にしておく。つまり、自分自身をコンテンツにする。
これは地味ですが、効きます。AIは、あなたのことを何も知りません。だから毎回、平均点の他人みたいな答えを返す。でも、あなたの思考のログを渡せば、AIはあなた寄りの答えを返し始めます。
大掛かりな日記は要りません。1日3行でいい。ある程度たまったら、こう渡します。
1以下は、最近僕が考えたことのメモです。ここから、僕の価値観・判断のクセ・よく使う言葉を抽出して、箇条書きでまとめてください。今後、僕向けに文章を書くときは、この特徴を反映してください。
一度これをやっておくと、以降のAIの出力が「自分ごと」になります。僕も、自分の発信のトーンをまとめたメモを一枚渡すだけで、返ってくる文章の直しが、ぐっと減りました。
これが、僕が「ナレッジ・イズ・キング」と呼んでいる話です。プロンプトを磨く前に、AIに渡すナレッジを整える。ここが本丸です。
「エリートだからでしょ」と思った人へ
ここまで読んで、こう感じた人もいるはずです。「元ゴールドマンで、地頭が違うんでしょ」。
逆です。
今回の7つに、特別な資格も、高価なツールもいりません。判断を型にする。リサーチを前夜に仕込む。声で書く。中学生に教えるように指示する。別の視点を憑依させる。AIを使い分ける。自分を記録する。全部、無料のAIと、今日から始められる行動です。
そもそも田中さん自身が、中学受験の失敗を原点として、そこから積み上げてきた人です。彼のAIの使い方が優れているのは、才能があるからじゃない。「自分の頭の中を型にして、AIに移す」という、誰でも真似できる原則を、淡々と徹底しているからです。
必要なのは、技術じゃありません。AIを迷わせない設計だけです。
まとめ
AIを「便利な調べもの相手」で開いているうちは、その力の半分も引き出せていません。
- ①判断の「型」を先に渡してから、案を流す
- ②リサーチは前の晩に仕込んでおく
- ③声で話して、書く時間を10分の1にする
- ④中学生に教えるように、前提から具体的に指示する
- ⑤ロールモデルを憑依させ、一人で複数視点の会議を回す
- ⑥1つのAIに全部やらせず、用途で使い分ける
- ⑦自分の思考を記録し、AIをあなた専用にする
読んで「へえ」で終われば、明日もいつも通り、全部を手作業で抱えることになります。多くの人は、そうします。
でも、あなたは違うはずです。今日ひとつだけ、いつもの判断をAIに渡してみる。それが、最初の型になります。
最後に
いかがでしたでしょうか。
今日話した「判断を"型"にして、AIに移す」という考え方。これ、僕自身が毎日、事業の現場で回しているものです。一度この考え方で回し始めると、もう元のやり方には戻れません。
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- AI用語解説②|Claude Code・Codex編(ターミナル・スキル・パス——毎日触る画面の言葉20)
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参考文献
田中渓さんの発言・経歴は、以下の公開情報に基づきます。
- The Keyperson インタビュー(AI活用の具体手法・「3週間→1時間」・使用ツール)
- PIVOT「元ゴールドマン・サックス田中渓の5つの掟」
- Pen Online(前夜のディープリサーチ・入浴中のインプット)
- Wikipedia「田中渓」(上智・学科首席/53回面接/投資規模約4000億円・企業価値1.2兆円超/MD・投資部門日本共同統括/勤続17年)
- 著書『億までの人 億からの人 ゴールドマン・サックス勤続17年の投資家が明かす「兆人」のマインド』(徳間書店)
GAKI | AI駆動ビジネス





