企業はいつ「倒産」するのか? 倒産という究極の教訓

@asakura_yusuke
日本語1 日前 · 2026年7月15日
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TL;DR

VC の朝倉祐介氏が倒産に関する誤解を解き明かします。生き残るためには、キャッシュフロー管理と資本コストの理解が不可欠であることを強調しています。

Xのタイムラインに、スタートアップの決算公告のキャプチャが流れてくることがあります。「減資手続きをしていてやばい」「赤字続きでもう終わりだ」。定期的に湧いてくるこの手のポストを眺めるたび、確信犯の煽りなのか本気の誤解なのか判然としないまま、真に受ける人が一定数いるのだろうなと憂鬱な気持ちになります。

先日、自分のPodcast「This is 令和スタートアップ」に、『最高の教訓 倒産』を上梓された村上茂久さん @cool_warm をお招きしました。新生銀行で不良債権投資に携わり、倒産の現場を目の当たりにしてきた財務のプロフェッショナルです。倒産とは何か、赤字をどう見極めるべきか、デットとエクイティはどう使い分けるのか。村上さんに解説いただいた内容は、スタートアップに関わるすべての人にとって示唆に富むものでした。本稿では、その要点を私なりの見解と併せてご紹介します。

赤字でも債務超過でも、会社は潰れない

村上さんが研修や大学の講義で出すという三択クイズがあります。どうすれば企業は倒産するか。①赤字が続く、②債務超過になる、③お金がなくなる。受講者の8割方が①か②を選ぶそうですが、正解は③です。会社は、赤字でも債務超過でも潰れません。キャッシュが尽きたときに潰れるのです。

もちろん、赤字や債務超過が資金流出の結果であるケースは多く、危険信号であること自体は事実です。ですが、赤字イコール倒産という短絡は明確な誤りで、創業以来赤字を掘り続けながら上場し、成長する会社は珍しくありません。

さらに村上さんが強調されていたのは、倒産は「終わり」ですらない、という点です。キャッシュが尽きた先には民事再生や会社更生といった手続きがあり、レナウンやトイザらスのように、法人としては破綻してもブランドや事業が引き継がれていく事例は数多くあります。倒産とは消滅ではなく、資本の論理によって事業の担い手が組み替えられるプロセスなのです。かつての日本長期信用銀行の破綻が、結果として日本の金融人材の流動化を促したように、マクロで見れば倒産が次の時代への引き継ぎとして機能してきた側面すらある。だからこそ倒産は、恐怖の対象ではなく教訓の宝庫なのだというのが、本書を貫く視点です。

1周目のスタートアップ起業家は資金繰り管理が苦手

この誤解の話は、他人事ではありません。VCとして多くの起業家とお付き合いするなかで痛感するのは、初めて起業する人は資金繰りのマネジメントが本当に下手だ、ということです。絶望的に下手です。自分だってかつては下手だったのだから偉そうなことは言えないのですが、想定外のコストが突如湧いて出てランウェイの前提が崩れる場面には、枚挙にいとまがありません。税金や社会保険料の見落としなどは、もはや「あるある」です。

では何に気をつけるべきか。村上さんの答えは明快で、売上と費用ではなく、入金と支出のタイミングを見ることに尽きます。支出は家賃や給与などある程度コントロールでき、見通しも立てられる。一方、入金は顧客次第であり、コントロールが極めて難しい。だからこそ支出側の解像度を上げ、売上は楽観的に見積もらない。楽観的な売上計画を前提に資金繰りを組み、苦しくなってから調達に走れば、足元を見られるのは道理です。

もう一つ教わったのが、グロスとネットの混同という落とし穴です。プラットフォーム事業の流通総額と自社の手取りは全くの別物です。出前館は2022年8月期、配達コストの高騰により原価が売上を上回り、原価率が104%に達しました。グロスの数字がいかに巨大でも、事業の実力はネットの粗利で測るべきものです。

掘っていい赤字と、致命的な赤字

では、赤字はすべて悪なのか。そうではありません。村上さんは見極めの軸を二つ挙げています。

一つ目は粗利、すなわちユニットエコノミクスです。同じ「場所を提供する」事業でも、物件を借り上げて転貸するWeWorkは原価率が9割前後に達した一方、マッチングに徹するAirbnbの原価率は2割弱にとどまるとされます。広告宣伝費を絞れば黒字化できる型の赤字と、原価構造そのものが薄利のビジネスが掘る赤字とでは、意味合いがまるで違う。「スケールしなければ死ぬ」構造なのだとしたら、その赤字を掘り続けてよいのか、慎重に問うべきです。

二つ目はPMFです。村上さんはこれを「価値検証」と「成長検証」の切り分けとして整理されていました。プロダクトの価値がまだ証明されていない段階で掘る赤字と、価値が証明された後にスケールのために掘る赤字とでは、取っているリスクの性質が全く異なります。この整理は、出し手である私にとっても耳が痛いものです。近年は「シリーズA」を名乗りながら実態はシードという投資も増えており、ラベルではなくどちらの検証段階にあるのかを直視することが、出し手にも受け手にも求められています。

すべては「お金の解像度」の問題である

デットの活用についても、村上さんの整理は一貫していました。銀行は「既知の価値」から回収可能性を見る。VCは「未知の価値」に賭けてリターンを求める。タイミーが営業赤字の段階で183億円、続けて130億円という大型の融資枠を無担保・無保証で引き出せたのは、信用力の高い取引先への売掛金と実績を丁寧に示し、金融機関の言語で説明しきったからに他なりません。

この点、私からも一つ申し上げたいことがあります。「銀行に融資を相談したら金利が5%で高かったから借りるのをやめた」という起業家の声を聞くたび、むしろ安いだろうと思うのです。エクイティの資本コストは、見えないだけで極めて高い。VCがファンドとして成立するには年率15%を超えるリターンが必要で、これは10年で元本の4〜5倍に相当します。私自身がVCの立場にあるため、単なるポジショントークと受け取られるかもしれません。しかし、投資先に高い成長を求める以上、その根拠となる資本コストの構造を説明する責任は、本来VCの側にもあるはずです。

倒産の誤解も、資金繰りの巧拙も、赤字の見極めも、デットとエクイティの使い分けも、村上さんのお話を貫いていたのは一つの問いでした。すなわち、会計上の見え方に惑わされず、キャッシュとお金の性質をどれだけの解像度で見られるか。倒産という極限の局面は、この解像度を鍛える最高の教材です。会社の終わり方を知ることは、会社の続け方を知ることに他なりません。詳しくは、ぜひ本編をお聴きください。

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