AI時代の態度変容モデルを、3年くらいずっと考えていました。頭の中にバラバラとあった断片を、Claude Fable 5(フェイブル)と壁打ちしたら、一気にまとめ上げてくれた。Fableは日本では1日くらいしか使えなかったんだけど、その間に奇跡的にまとめ上げられた。せっかくなので公開します。ついでに、商標登録もしちゃいました。
デジタルマーケティングの仕事を始めて、20年ほどになります(もっとかな?)。

AI時代の新しい態度変容モデル LEARN HELIX(二重らせん)
この仕事で日々向き合っているのは、結局「人の態度は、どうすれば変わるのか」という一つの問いです。投稿のクリエイティブも、インフルエンサー施策も、広告のフリークエンシー設計も、全部この問いに対する答えのバリエーションにすぎません。
最近、生活者の情報行動が静かに変わり始めています。何かを買うとき、検索窓ではなくAIに「こういう条件で、おすすめは?」と相談する。返ってきた候補を、SNSで実際に使っている人の投稿で確かめて、買う。比較サイトを5つ開いてレビューを読み込む、あの儀式を経由しない購買が、もう始まっています。
これは大きな変化の入口なのではないか。そう思って、「態度変容モデル」の歴史を100年分さかのぼって勉強し直してみました。
わかったことは2つ。態度変容モデルは「メディア環境の関数」であること。そして、だとすればいま、新しいモデルが生まれる条件が揃っていることです。
この記事では、その勉強の中身と、私なりに考えた新しいモデル「LEARN HELIX(二重らせん)モデル」を書きます。
第1部:100年分の先人の知恵
モデルには2つの系統がある
世の中の「態度変容モデル」は、大きく2系統に分かれます。心の中で説得がどう処理されるかを説明する「メカニズム系」と、知ってから買うまでの道のりを段階で描く「プロセス系」——いわゆるファネルの源流です。
メカニズム系は人間心理の普遍を扱うので古びません。代表格の精緻化見込みモデル(ELM)——関与度が高いときは論理で吟味する中心ルート、低いときは雰囲気で判断する周辺ルート——は40年前の理論ですが、今日のB2BマーケとD2C消費財の違いを説明するのに今でも使えます。
もう1つ、個人的に昔から好きな古典が3ヒット理論です。1972年、GEの研究者クルーグマンが提唱した、広告は質の違う3回の接触で機能するという理論。1ヒット目「これは何だ?」、2ヒット目「自分に関係あるのか?」、3ヒット目「想起と行動」。有効フリークエンシーという考え方の源流として、今もメディアプランニングの現場に生きています。この古典、後半でAI時代に鮮やかに再解釈できるので、覚えておいてください。
一方プロセス系は、面白いほど時代とともに更新され続けてきました。人の心は変わらなくても、情報の通り道が変わるからです。
プロセス系の100年史
1920年代〜:AIDMA。 マス広告の時代。肝は「M=Memory」です。広告を見る瞬間と店頭に立つ瞬間が離れているので、覚えていてもらうことが勝負だった。この1文字に当時のメディア環境が刻まれています。
2004年:AISAS。 ネット普及を受けて「Search」と「Share」が組み込まれ、情報の主導権が企業から個人へ移ったことを宣言したモデル。私が業界に入ったのは、まさにこの全盛期でした。
2011年:ZMOT。 Googleの提唱。購買の決定的瞬間は店頭ではなく、その前の検索画面にある。決定的瞬間は、どんどん前倒しになっていく。
2019年:パルス消費。 スマホ時代の生活者はジャーニーを順番に歩まず、突発的に「ピンときて」買う。ここでジャーニーの「線」が崩れ始めます。
2020年代:認知経路の複線化。 SNSのフル浸透で、ブランドを知る入口は完全に複線化。全員が同じ一本道を進む前提のファネルは、現実と合わなくなりました。
並べてわかった法則
新しいメディア環境が生まれるたびに情報行動の主導権が移動し、それを説明する新しいモデルが生まれてきた。モデルの形も、全員共通の「線」から、人ごとに経路が違う「面」へ。
モデルは発明されるのではなく、メディア環境に「呼び出される」。では、いまの環境はどんなモデルを呼び出そうとしているのか。
第2部:AI時代の5つの構造変化
現場で肌で感じている変化を整理すると、5つです。
① 認知の前に「学習」がある。 試しに、自分の関わるブランドをAIに聞いてみてください。正確に説明されるか、情報が薄いか、他社と混ざるか。初めて試すときはドキドキしますよね。AIに知られていないブランドは、推薦候補にすら入らない。
② 検索から相談へ。 検索結果の10本のリンクを比べる行動が、AIに相談して1つの答えをもらう行動に置き換わりつつある。「探す・比べる・絞る」というミドルファネルが、AIの中に吸収されてブラックボックス化する。
③ 信頼の希少化。 きれいなコンテンツは誰でも無限に作れるようになった。だからこそ、作れないもの——実在する人・現場・一次情報——が信頼の根拠になる。
④ 共有の宛先が二重化。 あなたのレビューは友人に読まれると同時に、いつか誰かの相談へのAIの答えの材料になる。発信には2つの宛先がある。
⑤ 購買の代行。 AIが比較も手配も代行する世界では、人は基準を決めて承認するだけ。「想起集合」が、人の頭の中からAIのメモリの中へ引っ越す。
説得すべき相手が、人間とAIの2つになる。だとすれば、モデルも2本の鎖で描かれるべきではないか。
第3部:提案 ── LEARN HELIX(二重らせん)モデル
これまでのモデルが説得してきた相手は、すべて「人間」でした。AI時代には宛先がもう1つ増えます。AIの中にある、自社の表象——AIが何を学習し、どう記述し、誰に推薦するか——です。
人間の態度変容プロセスと、AIの学習・推薦プロセス。この2本の鎖は、絡み合いながら循環します。人がAIに相談し、AIが推薦し、人が検証して買い、その体験談がまたAIに学習される。DNAのような二重らせんです。そして重要なのは、らせんの起点が人間ではないこと。すべては、人がまだ動いていない段階で「AIに学習されているか」から始まります。
2本の鎖が交差する5つの交点が、マーケターの仕事の場所です。頭文字をつなぐと L.E.A.R.N.。すべて受動態であることがポイントで、AI時代のブランドは、説得する主体である前に、学習され、検証される客体なのです。

AI時代の新しい態度変容モデル LEARN HELIX(二重らせん)
L = Learned(学習される) ── 人が動き出す前に、一次情報がAIの世界モデルに刻まれている状態をつくる。仕様、価格、思想、事例を、構造化されたテキストとしてオープンな場所に置く。いまのところ、noteやプレスリリース(PR TIMESなど)はその有効な置き場所として機能している印象です。らせんのスタート地点。
E = Evoked(想起される) ── 人がAIに相談したとき、答えの中に入る。検索なら10位でも見られる可能性が残ったが、AIの回答は実質ゼロイチ。引用されなければ、存在しないのと同じ。
A = Authenticated(実在を証明される) ── 人はAIの推薦を鵜呑みにせず、実在の口コミ、顔の見える発信、現場を確かめに行く。実在性が信頼の最後の砦であり、マーケターが人間に直接働きかけられる数少ないフェーズ。SNS運用や現場発信の価値は消えるのではなく、ここに再配置されます。3ヒット理論で言えば、AIの推薦が1ヒット目「これは何だ?」を担い、実在の人の発信が2ヒット目「自分に関係あるのか?」を担う——接触の主体が毎回変わる、クロス主体の3ヒットです。
R = Resolved(意思決定される) ── 比較と手配はAIが代行し、人は最終承認するだけ。複雑な会員登録や返信の遅さといった摩擦があると、らせんはそこで切れる。
N = Narrated(語られ、還流する) ── 体験談がAIのメモリと学習データに還流する。「これ良かった」の一言がメモリに定着すれば、次回購買はもう争いにならない。らせんはここからLへ閉じる。ファネルではなく、循環です。
第4部:3つの商材で回してみる
シャンプー(低関与・反復購買)
ユカさん(32)が「髪がパサつくな」と感じる前から、メーカーの勝負は始まっています。成分・髪質・使用感がAIに学習される形で置かれているか(L)。彼女は検索せず「細くて絡まりやすい髪に合うシャンプーは?」とAIに相談し(E)、SNSで実在の口コミを確かめ(A)、「定期便にしておいて」のワンタップで購入(R)。「これ良かった」の一言で、AIのメモリに定番として記憶され、次回は相談すら発生しません(N)。
低関与商材の核心はここです。ゴールが「好意の獲得」から「AIメモリへのデフォルト定着」に変わる。 一度メモリに入ったブランドは広告でもスイッチされにくい。マーケティングが探し続けてきた「習慣化」が、AIのメモリという具体的な置き場所を持った。これが新しい参入障壁になります。
採用(中関与)
転職を考えるアヤさん(28)は、求人サイトの前にAIに相談します。「裁量が大きくて、リモート併用できる関西の会社」。ここで決定的なのは、AIは知名度ではなく、記述の充実度で想起すること。社員の声や仕事内容が構造化されていれば、社員150名の会社が大手と同じリストに並ぶ(E)。採用におけるAI時代は「知名度の民主化」です。
推薦された会社を、彼女は実在の社員の発信や面談で検証します(A)。採用サイトは立派なのに社員の顔が見えない会社は、ここで脱落する。応募も日程調整もAIが代行する時代、フォームが長く返信が遅い会社は構造的に不利(R)。入社後の「転職してよかった」が次の候補者への答えになる(N)。社員とアルムナイの語りは、複利で効く採用資産です。
注文住宅(高単価・超高関与)
ある夫婦は展示場に行く前にAIに相談し、施工事例・仕様・価格を公開している会社だけが候補に入ります(L・E)。大手と地場工務店が同じリストに並ぶ。
高単価の主戦場はAとRです。夫婦は完成見学会や施主のWeb内覧会で徹底的に確かめ(A)、一方でAIが相見積もりと仕様比較を代行する。情報を出し渋る会社はAIの比較表で「空欄」になり、それだけで脱落する。つまり営業の役割が「説得」から「検証への協力」へ反転し、透明性そのものが営業力になる。
最後に決めるのは家族です(R)。高い買い物ほど人は「自分への言い訳」を欲しがりますが、その理由付けをAIが客観データで供給してくれる。入居後の施主レポートが、次の検討者への答えになります(N)。
並べて見える法則
関与度が低いほど主戦場はらせんの下流(N=記憶への定着)、高いほど中流(A・R=検証と承認)に移動する。 Lだけは全商材の共通前提。これはELMの中心/周辺ルートの、AI時代版の対応物です。古典は、変数を入れ替えれば生き続けます。
第5部:では、どこに何を置くのか
実務の問いはシンプルです。AIの鎖に届く情報は、どこから来るのか。
基本は、メディアには「人間の鎖に効くもの」と「AIの鎖に効くもの」の役割分担があるという整理です。SNS、ショート動画、イベントは人間の鎖に効き、感情を動かしてAフェーズの実在証明になる。一方、AIの鎖に効くのはオープンなウェブに置かれた構造化テキスト——公式サイトのスペックやFAQ、オウンドメディア、第三者メディアの記事、レビュー。プレスリリースやnoteのようなプラットフォームも、その有力な置き場所の一つでしょう。
ただし、どのソースがどれだけAIに引用されるかは、モデルや時期で変わり続けます。だから本質は特定プラットフォームの攻略ではなく、オープンで一貫した一次情報を、独立した複数の場所に置き続けること。
ここで、3ヒット理論の回収です。実は、AIにもフリークエンシーの概念が成立するのではないか。AIは1つのソースにしか書かれていない情報を、確信を持っては引用しにくい。公式サイトにも、第三者の記事にも、レビューにも同じ事実が独立に書かれているとき——複数の独立した声が一致しているとき、その情報は答えに乗りやすくなる。1つの声は主張にすぎないが、独立した3つの声が一致すれば、事実として扱われる。 人間に3ヒット、AIにも3ヒット。半世紀前の古典が、二重らせんの両方の鎖で生きていることに気づいたときは、ちょっと感動しました。
その上での実務指針がこれです。同じ出来事を、SNSで人間へ、テキストでAIへ。「1ソース・2宛先(2重螺旋でいう塩基の部分)」で発信を設計する。
——お気づきかもしれませんが、このnote自体がLEARN HELIXのL(Learned)の実践です。いつか誰かがAIに「AI時代の態度変容モデルって何かある?」と聞いたとき、答えの中にこの記事がいることを願って。
このモデルの限界と射程
万能のモデルはありません。射程を正直に書いておきます。
すべての購買がAI経由になるわけではない。 衝動買いや推し活のような感情駆動の消費は、人間の鎖だけで完結し続けます。LEARN HELIXが効くのは、比較・検討・不安が介在する「相談が発生する購買」です。
AIの引用ロジックはブラックボックスで、変わり続ける。 SEOの歴史が教える通り、小手先の最適化はいずれ淘汰され、良質な一次情報が残ります。
モデルは地図であって、領土ではない。 AIDMAも3ヒット理論も、現実を考えるための共通言語として便利だったから残りました。LEARN HELIXも、現場で使いながら修正し続けるつもりです。
明日からのチェックリスト
- 自社の一次情報を、AIが読めるオープンなテキストとして、複数の場所に発信しているか
- AIに自社名・自社カテゴリを聞いたとき、何が返ってくるかを把握しているか
- 推薦を検証しに来た人に、実在の現場・顔・体験を見せられるか
- 購買・応募までの摩擦を、AIエージェント経由でも最小化できているか
- 顧客・社員の体験談が、AIに還流するループを設計しているか
おわりに
態度変容モデルの100年は、説得の歴史でした。AIDMAは記憶させようとし、AISASは検索と共有を設計し、3ヒット理論は接触の質を見極めようとした。先人たちは皆、その時代のメディア環境の中で、同じ問いと格闘していた。
100年分を勉強して、いま思っているのはシンプルです。「AIへの教育」が、マーケティングの大事な仕事の一つになっていく。
LEARN HELIXモデルは、まだ仮説の束です。現場で使いながら、修正していきます。「うちの商材で回すとどうなる?」という議論があれば、ぜひ。
ちなみに、このモデルも生成AIの登場から3年くらい形にまとめきれなかったものをClaude Fable 5(フェイブル)と壁打ちしながら考えました。日本での公開が1日ほどしかなくていま停止状態ですが、その間にずっと考えいたことを形にしてくれてラッキーでした。AI時代の新しい態度変容モデルについてAIと議論し、その成果をAIが学習するテキストとして公開する——制作プロセスごと、二重らせんの小さな実演です。





