遊び心のあるテクノロジーを取り戻す:Claude を活用して 1 ヶ月で 4 つの iOS アプリをリリースした話

@ninesan
日本語1 か月前 · 2026年6月15日
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TL;DR

あるデザイナーが Claude を活用し、1 ヶ月で 4 つの遊び心あふれる iOS アプリをリリースした体験談です。AI がクリエイティブの焦点を「実装」から「意思決定」へとどのようにシフトさせるのか、そして「不完全な」デザインが持つ価値について探求します。

これはClaudeと共に1ヶ月かけてiOSアプリを4本リリースした話です。

なんとなく、アプリを入れなくなった

Takuro Okuyama - inline image

花火は面白い。物質は何も残らないのに。

最近、アプリをほとんどインストールしなくなった。

理由はたぶん、足りないものがないからだ。乗り換え案内も、写真の管理も、メモも、もう十分すぎるくらい揃っている。不便がない。でも、それと同じくらい、笑えるくらい無駄なものが消えた気がする。

スマホを傾けるとビールを飲んでいるように見えるiBeer。振り回すとブォンと鳴るライトセーバー。今になって思えば、何の役にも立たないやつばかりだった。役に立たないのに、みんなが入れて、笑っていた。

ああいうのを「駄テクノロジー」と呼んでいる。App Storeが"完成"していくにつれて、駄テクノロジーは静かにいなくなった。足りないものがない代わりに、面白いと感じるものもなくなった。

完成というのは、たぶん、遊びの余地が死ぬということだ。

コードが書けないデザイナー

Takuro Okuyama - inline image

どこかに風船の墓場がある。

ガラケーが駆逐され始めた頃、iPad(初代)にHuman Interface Guidelinesを無理やりPDFにして入れて、切込隊長として立ち回った事があった。誰もわからないけど自分がやるしかない、それが初めてのアプリ設計だったかもしれない。

こういうものがあったら、ここはこう動いたら——というイメージ。いわゆる俺が考えた最強の〜はいくらでも思いついた。ただ、コードが書けなかった。何度か挑戦はしたけれど、リリースまで届いたことは一度もない。

"あれば面白いのに"だけが、引き出しの中に溜まっていった。

自然言語でプログラムが書けるようになって、最初に思ったのは「引き出しのアイデアを発散するベストな場かもしれない」だった。

誤解のないように言っておくと、コードを書かない=完全に楽、では全然ない。実装をAIに任せられるぶん、「何を作って、何を作らないか」を自分で全部決めることになる。

難しさが消えたんじゃなくて、難しさの置き場所が、実装から判断に移っただけだった。むしろ設計者としての経験値は、この1ヶ月でかなり溜まった気がする。

誰でも自然言語でアプリを作れる時代に、デザイナーは何を握っていればいいんだろう、とよく考える。答えが「速く作れること」なら、もう自分たちは要らない。AIのほうが速い。

でも実際に4本作ってみて思うのは、価値は速さの側じゃなく、「動かして、違和感に気づいて、削る」側にあるということだ。機能はAIがいくらでも生み出してくれる。でも、何を残して何を捨てるかは、意志決定が必要だった。

1ヶ月で4本リリース

Takuro Okuyama - inline image

明け方のコインランドリーにしかない栄養がある。

この1ヶ月で出したのは4本。全部、どこかの仕事なら「それ、要ります?」と却下されそうなものばかりだ。

LOOK Lab — 現像のおもちゃ

写真が好きだ。でも写真の世界は、細かいルールやテクニックが多すぎる。ちゃんとやろうとすると、すぐに難しくなる。だから、誰でも楽しく現像できる、おもちゃみたいなアプリが欲しかった。

ホーム画面では写真が物理演算でばらばら落ちてくるし、自分の現像スタイルはカードにしてシェアできる。ほんの少しのきっかけから沼っていける動線を作りたかった。

個人的な話をすると、僕はときどき自分のカメラロールで心身の調子を測っている。いい写真がたくさんある月は、たぶん毎日が楽しい。LOOK Labも同じで、現像すればするほどホーム画面もシェアカードも賑やかになっていく。デジタルなのに、使い込むとその人の味が出てくる。そういう手触りにしたかった。

Roomtone — 存在しない部屋の音

昔、RjDjやBloomみたいな"音の出るアプリ"に衝撃を受けた。触ると音が鳴る。マイクが拾った音が、その場で別の何かに変わる。二度と同じにはならないサウンドとビジュアル。アートを一瞬だけ所有したような満足感。あれをもう一度作りたかった。

コンセプトは「音のリミナルスペース」だと思っている。

存在しない部屋を想像して、そこではどんな音が鳴るだろう、と連想する。それを元に、音の加工とビジュアライザーを設計していく。

シーンはかなりの数を試作して、半分以上を凍結した。机の上では良さそうでも、動かしてみると違和感が出る。その違和感は、走らせてみないと絶対に手に入らない。残ったのは、没入感が高かったものだけだ。Even G2というメガネをかけて、散歩しながらシーンの相談をしたのは、地味にいい思い出になっている。

Shoot Chop Drop — どこにでもあるビート

楽器が好きで、VJもやっていた。たぶんそれが下地になっている。何気ない風景を切り取ってループさせると、そこにリズムが生まれる。あの体験がとても好きだ。世界のあらゆるところにビートの種が埋まっていて、それを掘り出す。映像でそれを加速させる。NinjaTuneのHexstatic的快楽。

ちょうどUFOが気になっていた時期だったのもあって、「UFOが牛を攫う」のとサンプリングって近いな、と思った。何かを、文脈ごと持ち去る感じ。それがそのままアプリ名とロゴになった。隠しモードには牛を攫うミニゲームがあって、クリアすると隠し機能が開く。ずっと牛を攫っていると怒られるし、LPもわざと要素がUFOに攫われて読みにくくしてある。

仕事なら、まず却下されるやつだ。でも、こういう後回しにされがちな"無駄"を堂々とやれるのが、AIで作ることのいちばんの良さかもしれない。楽しいので正解。自分の中ではこれが大正義だった。

C-1440 — 声のテープ

映画やドラマで、研究員が片手にレコーダーを持って作業している姿に、昔から憧れがあった。Teenage EngineeringのTP-7は、まさにそのロマンを満たしてくれるデバイスだ。ただ、ミニマルなハードウェアであることと、使いやすいことは、必ずしも一致しない。

だからもっと生活に寄り添う、普段使いできるアプリにした。思いついた瞬間にボタンを押して話すだけ。その日のつぶやきが1本のテープになって、毎日の記録になる。過去の自分を振り返るときの、あの恥ずかしさすら楽しめたらいい。記録書き出せばポッドキャストにもできるし、ただのタスクメモにもなる。使い方は人それぞれだ。

iOSアプリにして良かったのは、文字起こしもバックアップも、OSが最初から面倒を見てくれることだった。

作っている途中で、Krapp's Last Tapeという戯曲を知った。これについては、最後にもう少しだけ書く。

完成じゃなくて、削ぎ落とし

4本を並べてみて、気づいたことがある。どれも"完成"はしていない。むしろ、わざと足りないままにしてある。(聞こえはいい)

完成というのは、足りないものを全部埋めることだ。さっきの「もう何も入れなくなったApp Store」がそうだったように、埋めきると遊びが死ぬ。

削ぎ落としは、その逆だ。埋めるんじゃなくて、空ける。空けた余白に、使う人の味や、偶然や、遊びが入り込んでくる。LOOK Labが使い込むほど賑やかになるのも、Roomtoneの音が二度と同じにならないのも、たぶんそこに余白を残したからだ。

同じ"少なさ"に見えて、完成と削ぎ落としは正反対なんだと思う。AIがやってくれたのは、タイピングのほう。自分がやったのは、削るほうだ。誰でもコードが書ける時代に残った仕事があるとしたら、たぶんこっち側だった。

Krapp's Last Tape

Takuro Okuyama - inline image

子供と作るクッキーはうまい。

C-1440を作っているときに知った戯曲の話を、最後に少しだけ。

Krapp's Last Tapeは、老人が、何十年も前の誕生日に自分が録音したテープを聴く、という話だ。若い頃の自分の声を聴いて、笑ったり、苛立ったり、ちょっと恥ずかしくなったりする。そしてまた、新しいテープを録る。

これを読んだとき、人生ってこういうことなのかもしれない、と思った。毎日の断片を録って、後で削って、振り返ると少し恥ずかしくて、でもそれが味になっている。

多分この記事も恥ずかしいし、それは楽しい事だと思う。発散的にアプリを作るというのも、そういう事。

駄でもいい。足りすぎる時代に足りないくらいがいい。

完成しないまま、また何か作る。それくらいが、ちょうど面白い。

LOOK Lab

https://apps.apple.com/jp/app/look-lab/id6762329058

Shoot Chop Drop https://apps.apple.com/jp/app/shoot-chop-drop/id6768887559

Roomtone

https://apps.apple.com/jp/app/roomtone/id6779098983

C-1440

https://apps.apple.com/jp/app/c-1440/id6779900172

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