AIデータセンターの拡大に伴い、光部品の需要が増加していますが、部品の種類やサプライチェーン上の位置によって供給状況に差が見られる。
2026年5月以降の各社決算や会社発表、調査報道を時系列で追うと、光ファイバーの需要増加だけでなく、上流の材料や特定のレーザー、トランシーバー量産能力においても、需要が生産能力を上回る動きが複数の企業から指摘されています。
この記事では、5月4日から6月19日までの主な材料を基に、供給制約の階層構造を整理します。
供給制約の階層構造
5〜6月の材料を供給制約の強さで見ると、最もタイトなのはInP基板・InP材料・インジウムであり、次にEML/CW-DFBレーザー、800G/1.6T光トランシーバー量産能力が続きます。
光ファイバー/光ケーブルもハイパースケーラーが長期確保に動いているためタイトですが、Corningや国内電線各社の大型増産計画が出ています。一方、光コネクタ/MT・TMTフェルール、サーモモジュール、化合物半導体製造装置は、直接的な不足というより、AIデータセンター向け光部品の増産投資が波及している領域として整理するのが正確です。
供給制約の階層(上から順に)
InP基板 / InP材料 / インジウム
EML / CW-DFBレーザー
800G / 1.6T光トランシーバー量産能力
光ファイバー / 光ケーブル / 光接続ソリューション
光コネクタ / MT・TMTフェルール / 高密度接続部品
サーモモジュール / TEC
化合物半導体向け製造装置(増産投資の波及先)
5月以降の主な動き(時系列)
5月4日 Fabrinet決算
光通信EMSとして、部材・材料の供給制約が指摘されました。決算コールでは「需要リスクではなく供給制約」と整理されており、完成品ではなく製造を受託する側で出荷が需要に追いついていない状況が確認できます。
5月5日 Lumentum決算
売上は前年比+90.1%と大幅に増加。laser chipsやpump lasers、CPO/OCS向け製品のミックス改善が利益率向上の要因として挙げられました。AI光需要の強さを示す材料です。
5月6日 NVIDIA × Corning提携
AI工場向けに光接続製造能力を10倍、米国ファイバー生産能力を50%以上拡大する計画が発表されました。
5月6日 Coherent決算
データセンター・通信向け需要が極めて強いとされ、InPの業界全体制約が指摘されました。800Gと1.6Tが成長ドライバーで、能力拡張が最優先と説明されています。
5月7日 AAOI決算
800G/1.6T需要が2027年半ばまで生産能力を上回る見通しを示しました。月産能力を現在の約10万台から、2026年末に65万台、2027年末に93万台へ引き上げる計画を発表しています。
5月12日 住友電工 中期経営計画
3カ年累計で設備投資1兆円を計画。デジタル・AIを重点分野の一つに位置づけています。
6月2日 白山(古河電工系) TMTフェルール新工場
AIデータセンター需要急増を背景に、VSFF多心光コネクタ向けTMTフェルールの新工場を新設すると発表しました(約50億円、2028年4月稼働予定)。高密度化に対応した量産体制の構築です。
6月3日 TrendForceレポート
NVIDIA、Google、MetaがEML/CW-DFBの生産能力をロックインしていると整理。2026年の合計月産能力は約5,070万個へ拡大する見込みです。
6月4日 フェローテック 決算説明会Q&A
光トランシーバー向けサーモモジュールを月400万枚から600万枚へ増強中、年内900万枚を目指すと説明しています。一方で「需要増加に対応できている」との認識も示されています。
6月8日 Amazon × Corning契約
AmazonがCorningと複数年・数十億ドル規模の契約を締結。データセンター向け光ファイバ、ケーブル、接続ソリューションを長期確保します。
6月11日・19日 Reuters報道
中国のInP輸出管理およびインジウム輸出審査強化が、AIデータセンター向け高速光チップの供給制約要因になっていると報じられました。
6月12日 サムコ決算
受注高が前年比+95.5%、受注残高+85.4%と過去最高を更新。化合物半導体分野も堅調で、光デバイス関連の設備投資需要が続いていると説明されています。これは上流の光デバイス増産投資が装置側に波及している動きとして捉えられます。
6月16日 JX金属 InP基板投資
光通信インフラ需要に対応するため、4年間で最大1,200億円の設備投資を決定(既発表分と合わせて約1,500億円規模)。生産能力を2025年度比で7〜10倍に引き上げる計画です。会社側は「需要はこれまでの見立てを大きく上回る」と明言しています。
6月18日 フジクラ 業績予想上方修正
ハイパースケーラーからの光コンポーネント製品の想定外プロジェクト受注と売価アップを理由に、業績予想を上方修正しました。
**5〜6月材料から確認できる動き
**5〜6月の決算・発表から、日本企業で特に目立った動きは以下の通りです。
JX金属
InP基板で4年間最大1,200億円(既発表分と合わせて約1,500億円規模)の設備投資を決定。生産能力を2025年度比7〜10倍に引き上げる計画で、会社側も「需要がこれまでの見立てを大きく上回る」と指摘しています。
白山(古河電工系)
TMTフェルール新工場を新設(約50億円、2028年4月稼働予定)。高密度光コネクタ向けの量産体制構築です。
フジクラ
ハイパースケーラーからの光コンポーネント大型受注と売価アップにより、6月18日に業績予想を上方修正しました。
サムコ
化合物半導体装置の受注が過去最高水準。光デバイス量産投資の波及先として装置需要が強まっています。
フェローテック
光トランシーバー向けサーモモジュールの月産能力を400万枚→600万枚へ増強中、年内900万枚を目指す計画を明らかにしています。
これらは5〜6月時点で公表された材料に基づく整理です。
なぜJX金属の投資規模が突出して見えるのか
JX金属がInP基板で「7〜10倍」という大きな数字を出している一方で、他の企業の増産計画がそれほど大きく見えないという違和感を持つ人もいるかもしれません。
これは、InP基板が光トランシーバーを作るための最も上流の材料であり、製造難易度が非常に高く、設備投資1件あたりの金額が大きいためです。また、新規参入がほぼ不可能な領域であることも影響しています。
そのため、需要が想定を大きく上回ったことで、JX金属がInPに集中して大型投資を決断したことは自然な対応と言えます。一方、他の企業は中流〜下流の領域が中心であり、相対的に投資規模が小さくても対応可能なため、数字として目立ちにくい構造になっています。そのため不足しそうと判断されれば、他の部材も受注が入ると思われます。
まとめ
5月以降の決算・発表等を解釈すると、今後注目すべきは、各社の能力拡張計画の進捗状況と、主要ハイパースケーラーの光部品調達動向です。特にInP基板とEML/CW-DFBレーザーの供給状況が、2026年後半以降の光部品需給を左右する鍵になると考えられます。





