AI のラストワンマイル

@djtokyo
日本語4 週間前 · 2026年6月17日
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TL;DR

本記事では、AI の基盤モデルから実社会への応用へとシフトする潮流を考察します。テクノロジーが特定の業界ニーズや人間の信頼と交差する「ラストワンマイル」こそが、最大の価値と構造的な優位性を生む源泉であることを強調します。

僕が「AIの最初の数マイル」と呼んでいる領域がある。この3年間、僕たちの業界でも一番熱いと言われている領域だ。半導体をつくるための材料を生み出す化学メーカー。AIが学習するデータを蓄えるフラッシュメモリの会社。いわば、知能の原材料だ。そして、この原材料の領域で、日本は強い。

そして、その先に位置するのが「2マイル目」、ファウンデーションモデルだ。AnthropicのClaude、OpenAIのChatGPT、GoogleのGemini。知能を動かすエンジンたちだ。

これらの会社の成長スピードと規模は、これまでのどんなソフトウェア企業も到達したことのないレベルにある。最近では、こうした会社があまりに強くなりすぎて、それ以外のものはもう大して意味を持たなくなるんじゃないか、という声すら聞こえてくる。

この2つの領域、原材料とエンジンの両方に対する需要は、指数関数的に伸び続けている。速いイノベーション、速い需要、速い進化。この流れは、間違いなく止まらない。

ここ数週間、僕はアメリカにいた。現地で交わした会話のなかで見えてきたこと、そこから考えたことを、共有したい。

一番大事な「マイル」

でも、僕が一番気にかけているのは別の場所だ。僕はそれを「AIのラストワンマイル(The Last Mile of AI)」と呼んでいる。

ラストワンマイルとは、テクノロジーが現実の世界と出会う場所。実在する業界、実在する顧客、実在する課題に対して、知能が適用される場所。ここにこそ、とてつもなく大きな価値が生まれると僕は考えている。

この領域は、ローカルであること、顧客の近くにいることが、決定的に効いてくる。知能とソフトウェアの世界は、これまで海外企業に支配されてきた。でも、ラストワンマイルはまったく別のゲームだ。ここには日本の構造的な強みが存在する。

その強みは、仕事そのものの性質から来ている。ラストワンマイルで勝負を分けるのは、国境を越えて持ち運べないものだ。特定の業界の慣習やプロセス、規制の細部、言語、そして何より、長い年月をかけて積み上げてきた信頼関係。これらはすべて、日本の企業がすでに持っている。既存企業も、スタートアップも。だからラストワンマイルは、その土地を知る者が強い。世界中どこでも、そうだ。ならば日本では、日本のプレイヤーが強いし、強くあってほしい。

たとえエンジンがどこで作られようと、その知能を自分たちがよく知る業界、顧客に届ける部分でこそ、僕たちは輝けると信じている。

このラストワンマイルは、いろんな形で届けられる。SaaSはその有力な一つだが、それだけじゃない。コンサルティングやSIerのようなサービス、ロボティクスやデバイス。これから先は、その組み合わせになっていくだろう。

この「AIのラストワンマイル」について、今回の旅で特に強く感じたことが、5つある。

トークンの流れ

1つ目は、アメリカの起業家や投資家たちと話すなかで繰り返し出てきた、この問いだ。

「自分のプロダクトやサービスは、トークンの流れの中でどこに位置しているのか」

トークンが増えれば、自分が売っているプロダクトへの需要も増えるのか。それはつまり、自分のプロダクトを使うほど、顧客がより多くのトークンを使うか、ということだ。これが、ビジネスを評価するレンズになりつつある。

SnowflakeやDatabricksを思い浮かべてみてほしい。トークンが増えればデータが増え、データが増えれば、プロダクトへの依存が深まる。Datadogも同じだ。トークンの出力を観測する必要が高まるほど、需要が増える。CursorやSlackのポジションも興味深い。人がAIエージェントに指示を出し、ともに働くための入り口になっている。エージェントが使われるほど、その入り口の価値は上がっていく。

だから、ラストワンマイルで答えを出すべき問いは、この3つだ。

「自分たちは、より多くのトークンの利用を可能にしているか」

「トークンの使われ方を握っているか」

「トークンが増えることが、そのまま自分たちのプロダクトへの需要を引き上げるのか」

もし、この3つすべてに対する答えが「ノー」だとしたら。一度じっくり向き合う価値があると思う。ビジネスが成立しないという意味じゃない。ただ、市場で一番強い追い風には乗れていない、ということだ。

任される、という資産

2つ目は、1つ目とは少し角度が違う。トークンの流れがビジネスの「追い風」の話なら、こちらは「そもそも、誰がその仕事を任されるのか」という話だ。

知能は、これからどんどん「余っていく」。モデルは賢くなり続け、その値段は下がり続ける。賢いだけなら、もうすぐ誰でも手に入る。

では、何が余らないのか。何が、最後まで希少であり続けるのか。

それが、「任される」ことだと思う。

どれだけ優秀なAIがあっても、銀行はクリティカルな業務を、外から来たモデルにいきなり触らせない。病院も、患者のデータを簡単には外に預けない。極論、その判断が間違っていたとき、誰が顧客の前に立つのか。誰が責任を取るのか。

ここで問われているのは、賢さじゃない。やはり長く築いた信頼と、「最後は自分が責任を取る」という覚悟だ。

賢さは、お金とデータと計算資源があれば、ある程度は買える。でも、信頼と覚悟は、買えない。顧客と向き合い続けた年月の中でしか、生まれてこない。

買えないものは、積み上げる。「任される」という資産こそ、ラストワンマイルを担う企業が積み上げるべきものだ。

フォワード・デプロイド

3つ目は、「フォワード・デプロイド」だ。フォワード・デプロイド・エンジニア(FDE)という言葉は、もう聞き飽きているかもしれない。でも、顧客の近くにいることの価値が、かつてないほど高まっている。これは、ソフトウェアで勝つための数少ない道の一つだと感じている。

業界や国には固有のルール、慣習、プロセスがあるが、それだけじゃない。顧客ごとに、もっとローカルな文脈がある。ソフトウェアそのものがコモディティ化していくなかで、この文脈を捉えられるかどうかが、勝負を分ける。

ラストワンマイルでAIが本当に役立つには、モデルが賢くなるだけでは足りない。それは、4つのものが噛み合って、初めて動き出す。技術、その業界やその顧客にしかない知識、現場の業務プロセス、そして届けたあとの伴走。モデルは、このうちのたった1つでしかない。残りの3つは、テクノロジーのスピードではなく、組織のスピードでしか動かない。

しかも、知能の層は常に揺れ動いている。できることは変わり続ける。昨日まで動いていたものが、突然壊れることもある。だからこそ、AIの世界では、売った「後」にこそ重みがかかる。カスタマーサクセスは、終わりのない旅になる。プロダクト、エンジニアリング、カスタマーサクセス。この3つが、これまでになく密に絡み合っていく。

技術、知識、プロセス、そして伴走。これらを束ね続けられるチームこそが、強い。そして、その統合と運用は、顧客との関係が続く限り終わらない。終わらないからこそ、簡単には真似できない。ここにこそ、ラストワンマイルの本当の参入障壁が生まれると、僕は思っている。

戦時モード

4つ目は、「戦時モード」だ。この旅で話した多くの起業家が、「自分たちは、戦時下(War Time)にいる」と話していた。「War Room」という会議室を構える企業まであった。

速く動くこと、ときに何かを壊しながら進むことが、デフォルトのスピードになっている。減速はないし、ゴールテープもない。ある会社では、全員が朝5時に出社して、夜9時まで働く。土曜は休みだけど、日曜にはミーティングやリモートワークが走っている。「勝つためには必要なんだ」と言う。別の会社を夕方訪ねたら、みんなオフィスで「夕飯のデリバリーを何にするか」話しはじめていた。ここからまたハッスルするための、腹ごしらえだ。

AIは、人をより速く動かす。同時に、会社どうしの競争を、いっそう激しくしている。そして、チャンスもまた、はるかに速く大きくなっている。

戦時モードでは、計画の更新頻度が一気に上がる。四半期や半期のOKRを掲げて、その通りに走り切る。これまで当たり前だったこのリズムが、もう通用しなくなっている。立てた目標が、達成するころには的外れになっていることすらある。

何人もの起業家が、まさにここで苦労していると話してくれた。ある起業家は、プロダクトのロードマップを毎週見直していると言っていた。競争と技術のダイナミクスが変われば、自分たちもそれに合わせて変わらなければならない。プロダクトチームも、セールスチームも、マーケティングチームも、全員が「計画はいつでも変わりうる」「もう、以前とは違う局面にいる」という前提を、当たり前のものとして受け入れていなければならない。

僕らはまだ1%

そして5つ目。これは感じたことというより、確信に近い。旅のあいだ、ずっと頭にあったこと。僕らはまだ、AIのラストワンマイルでできることの、ほんの1%の地点にいる。ファウンデーションモデル、つまり知能の層は、これからもっと賢く、もっと有能になっていく。それが、ラストワンマイルの可能性をどんどん広げる。ロボティクスやハードウェアも進化する。僕らにできることはもっと増える。労働の世界の課題を、より直接的に解いていけるようになる。

この変化の全体像を掴みきれているとは到底言えない。何が起きるのか、どこまでいけるのか、わからないことだらけだ。でも、だからこそ、ここから先に待っているものに、僕はとにかくワクワクしている。

もし、このラストワンマイルに挑もうとしている起業家がいたら、ぜひ僕に連絡してほしい。まずは、これからの可能性を話したい。その先に、一緒に走る道へと繋がれば、嬉しい。

(記事の編集してくれたkobajenneに感謝)

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