最近、マッキンゼーが出した「Rewiring Talent to Value in the age of AI」という記事を読みました。タイトルを訳すと「AI時代における、価値への人材の再配線」といったところでしょうか。
自分はここ最近、Claude Codeで自分用のプロダクトを作ったり、Obsidianで知識ベースを構築したりと、AIを使って一人でどこまで仕事を増幅できるかを試している最中なのですが、この記事はまさにその問題——「AIがいる前提で、どの人を、どの仕事に、どう配置すれば価値が最大化するのか」——を、マッキンゼーらしい構造で整理していて、非常に興味深かったのでご紹介します。
特に「タレント(人材)」というバリューの捉え方が、AIによって根本から変わるという指摘が刺さりました。採用する立場の人にも、採用される立場の人にも、関係のある話だと思います。
後半では記事を読んで感じた問いに対して個人的な感想をメモしておきます。
そもそも「Talent to Value」とは何か
本題に入る前に、前提となる考え方を簡単に。
マッキンゼーには「Talent to Value(人材を価値へ)」という、もう10年以上使われてきた有名なフレームワークがあります。ざっくり言うと、こういう考え方です。
会社の価値の約8割は、たった30〜50個の「重要な役割」から生まれている。だから、その重要な役割を特定し、そこにトップ人材を当てはめれば、インパクトは最大化する。
面白いのは、その重要な役割が必ずしも上層部にあるわけではない、という点です。記事によれば、重要な役割のうちCEO直下にいるのは5〜10%程度で、残りの大半はCEOの2つ下・3つ下の階層に存在するとのこと。つまり「偉い人を見ればいい」のではなく、「価値の源泉がどこにあるか」を冷静に特定しろ、という話なわけです。
このロジック自体は、AI時代でもまったく色褪せていません。ただし、決定的に変わったことがある。それは、
価値はもはや「役割」だけでは生まれず、人とAIエージェントが動的に組み合わさった「システム」から生まれるようになった。
という点です。生成AIが「仕事のやり方」を変えたのに対して、エージェント型AIは「誰が(あるいは何が)その仕事をやるのか」を変えてしまった。人と知的システムが隣り合って働く、新しいハイブリッドな労働力が生まれている。だからこそ、人材戦略も再配線(rewire)が必要だ、というのがこの記事の主旨です。
記事では、従来のTalent to Valueの4ステップをAI時代向けに更新し、さらに第5ステップを新設しています。順番に見ていきます。
❶ ステップ1:価値の地図を、描き続ける
従来は、事業部や製品ラインごとに目標を割り振って「価値の地図」を一度描けば、しばらくはそれで戦えました。
でもAI時代は、技術の進歩が能力をどんどんコモディティ化させていくので、価値の源泉が、従来の計画サイクルが追いつかないスピードで移動していく。年に一度の中期計画を立てているうちに、価値のあるポイントがズレてしまう。
だから先進的な企業は、価値の配分を「一度きりの計画」ではなく「継続的なプロセス」として扱い始めている。AIがどこで優位を生んでいるか/逆にどこで優位を失わせているかを動的に追いかけ、人材とエージェントを新しい機会へ素早く再配置する、というやり方です。
記事で挙げられている例が示唆的でした。ジョンソン・エンド・ジョンソンは約900個の生成AIのユースケースを洗い出したものの、価値の8割は、そのうちわずか10〜15%の施策から生まれていたそうです。だから同社は「広く長く実験する」のをやめて、最も価値を生むユースケースに継続的に絞り込む方針へ転換した、と。
数を撒くのではなく、価値が出ている場所を見つけてそこに寄せていく。当たり前のようでいて、AI施策が乱立しがちな今、改めて効く話だなと思います。
❷ ステップ2:重要な役割、と、エージェント、を特定する
ここが個人的に一番面白かったところです。
従来は「重要な役割を決めて、そこに一人の人間を当てる」というシンプルな話でした。でもAIが仕事を「タスク」に分解していく世界では、一部は自動化、一部は人間の補助つき、一部は人間主導と、話が変わって来ています。
マッキンゼーは、視点を「Talent to Value(人材を価値へ)」から「Talent and Agents to Value(人材とエージェントを価値へ)」へ移せ、と言っています。
具体的な手順はこうです。まず最高価値の領域を特定する。次にそれを「ケイパビリティ・スキル・タスク」に分解する。そのうえで、各タスクごとに「人間/エージェント/その両方のハイブリッド、どれが一番うまくやれるか」を割り当てる。
多くの場合、価値の真の単位は、もはや単一の役割ではなく、人とエージェントが協調して成果を出す「システム」になっている。
この時代に重要性が増す役割として、AIの成果に責任を持つドメインリーダー、AIプロダクトオーナー、人とエージェントのワークフローを設計するアーキテクト、プロンプトエンジニア、エージェントに正しい文脈を与えるデータ/知識の専門家、などが挙げられています。さらにエージェント運用基盤のリードやエージェントのガバナンス連絡役といった、まったく新しい役割も生まれていると言います。
❸ ステップ3:AIで「価値を増幅できる人」を厳しく見極める
ステップ2と密接につながるのがこのステップ3です。
従来は、ある役割に必要な「知識・スキル・属性・経験」に照らして人を評価していました。でもAI時代には、これだけでは不十分になる。なぜなら、知識はAIを通じてどんどんアクセス可能になり、経験は仕事そのものが変わることで陳腐化しうるからです。
そこでマッキンゼーが打ち出すのが、評価軸の転換です。
目標はもはや「人材を役割に当てはめる」ことではなく、その人がAIでどれだけ価値を増幅(amplify)できるかを見極めることだ。
ここで出てくるのが「AIスーパーユーザー」という概念。かつてチームを必要とした仕事を、AIを使って一人でこなしてしまう人のことです。記事は、こういう人材を見極め・育てるために、次のような資質を持つ人を優先せよと言っています。自分とチームのAIリテラシーを高められること、AIを通じて業務やワークフローを再構想できること、問題設定・創造性・判断を使って変化を実際に動かせること、意思決定をして説明責任を引き受けられること、継続的に学び新しい知識を適用できること。
実例として挙げられているのがmeta社です。同社は各重要役割に必要なスキルと「AIによる期待インパクト」を定義し、従業員がAIをどう使って価値を生むかで評価し始めているとのこと。ここで記事が念を押しているのが、
AIへの広いアクセスが、自動的に差別化された成果につながるわけではない。ごく一部の人だけが、AIを統合して周囲を圧倒的に上回る成果を出す。
という一文です。ツールを配っただけでは差は生まれない。同じAIを持っていても、突き抜ける人とそうでない人に分かれる。この差を見極めることが、人材戦略の核心になる、というわけです。
ちなみに、記事は人材を「buy・build・borrow(採る・育てる・借りる)」の組み合わせで揃えよとも言いつつ、重要なAI能力を外部人材に頼りすぎると、規模化や価値維持に苦しむ脆い組織になると釘を刺しています。借り物だけで核を固めるな、という指摘は、外部CMOという立場で仕事をしている自分にとっても、耳が痛くも納得のいく話でした。笑
❹ ステップ4:トップチーム自身を、見直す
Talent to Valueは、結局のところリーダーがプロセスを自分のものとして回せるかどうかにかかっている。ところが、多くの経営チームは、まだAIリテラシーが足りず、一貫した価値アジェンダの定義も、重要役割の優先順位づけも、効果的な人材判断もできていない、と記事は厳しく指摘します。
だからトップチームと取締役会こそが、AIに精通し、自ら手を動かし、これまでの前提に挑む必要がある。組織の階層を「監督」するのではなく、人材・AI・ワークフロー・資源配分という動的なシステムを「運用」する側に回れ、と。
記事は、過去18ヶ月で多くのフォーチュン500企業がAI戦略に焦点を絞るためにリーダーチームを再編し、それが組織再構築や幹部の退任を伴うケースもあったと述べています。経営層こそが最初に再配線される、ということなのでしょう。
❺ ステップ5(新設):「誰がやったか」より「システムがどう機能したか」
そして、AI時代に新しく加わったのがこのステップ5です。個人的にはステップ2と並んで、この記事のハイライトだと感じました。
エージェント型の組織では、評価の問いが根本的に変わる。
「誰がその仕事をやったか?」から、「そのシステムは、どれだけうまく機能したか?」へ。
成果はもはや個人だけに帰属するものではなく、人とエージェントが協調したシステム全体の出来によって決まる。だから評価も、人間とエージェントで分けて、けれど補完的に設計する必要がある。エージェントは「意思決定の質・信頼性・速度・コスト」で評価し、人間は「事業インパクト・AIワークフローを定義し改善する力・倫理的なAI利用・チーム横断の協働」で評価する。
ここで記事が突いているポイントは、こうです。
多くの組織がつまずくのは、優秀な人材や高度なAIツールが足りないからではない。それらを、明確な説明責任とフィードバックの仕組みを持つ「一貫したシステム」に統合できていないからだ。
人もAIも揃っているのに成果が出ない。原因は"つなぎ方"にある、と。だからリーダーは、資本配分と同じくらいの厳格さで、このシステムを運用しろと記事は締めくくっています。
個人的に感じたこと
長くなりましたが、読んで自分が考えたことを2つほど。
❶ 「役割」から「動詞」へ、見極めの解像度を上げる必要がある
ステップ2で重要な役割に対してどうアサインを考えるか、という話がありました。ここで自分がまだ腹落ちしなかったのは、この「見極め」をどうやるかということです。
記事は「タスクに分解せよ」とまでは言っていますが、そのタスクをどう見るか、という解像度の話はしていません。
現状、自分の考えだと、役割を"名詞"のまま見ているとAI化の判断ができないが、"動詞"のレベルまで割ると、担当が見えやすくなるのではないか、です。
たとえば「採用担当」という名詞のままでは、AIに任せられるかどうか判断できません。でも「候補者をスクリーニングする」「面接の温度感を読む」「オファーを口説く」と動詞に分解すると、どれがエージェント向きで、どれが人間でなければ無理かが見えてくる。スクリーニングはエージェント、温度感を読むのは人間、という具合に。
役割という固まりを動詞のレベルまで割って初めて、人とAIの配分が判断できる。これはステップ2を実務に落とすときの鍵になるんじゃないかなと思っています。
❷ AIは「増幅器」であって、増幅される"元"がない人には効かない
ステップ3の「AIで価値を増幅できる人を見極める」という話。これがずっと頭に残っています。
記事はmetaの例を引いて「ごく一部の人だけが突き抜ける」と言っていますが、ではなぜ一部の人だけが増幅するのか、という理由までは踏み込んでいません。自分の仮説は、AIはあくまで増幅器(amplifier)であって、増幅される"元"——つまり「自分で手を動かしてきた習慣」——がない人には、そもそも増幅するものがない、ということです。
だから、もし自分が誰かを「AIで増幅できる人かどうか」見極めるとしたら、AIの話を一度脇に置いて、「この1年で、新しく学んだこと・試したことは何ですか?」と聞くと思います。AIに限定せず聞くことで、ツールに飛びついただけの人と、もともと自分の能力を拡張し続けてきた人を分けられる。後者にAIが乗ったときだけ、本物の増幅が起きるんじゃないかなと。
。。。
AI時代の人材論というと、つい「どの職が消えるか」という話になりがちですが、この記事はそこから一歩進んで、「人とAIをどう組み合わせ、どう評価し、どうつなぐか」という設計の問題として捉え直していて、読み応えがありました。
採用する側も、される側も、そして自分自身をどう拡張していくかを考えるうえでも、示唆の多い記事だったなと思います。
今回はこの辺りで。 お読みいただきありがとうございました🙇
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