僕のXのDMには、ときどき新人漫画家さんや漫画家志望の方から様々な相談が届きます。
本来であれば、こうした相談は担当編集さんにするのが一番です。
ですが実際には、編集者さんとのやり取りで行き詰まってしまった方や、担当がいない方からご連絡をいただくことが多い印象があります。
とくに募集はしてないのですが、漫画家志望者向けのカンファレンスに登壇したり、記事を書いたり、美大での講師経験などもあるために、「一度話を聞いてほしい」と思ったりするのかもしれませんね。
今回は、その中でも「これは多くの漫画家志望者にも共通する悩みだな」と感じたやり取りを、一つご紹介します。
内容は匿名化し、個人が特定できないよう文章を再構成しています。また、ご本人からは記事として紹介する許可をいただいています。
もし今、漫画家を目指している方や、創作で悩んでいる方がいれば、何かの参考になれば幸いです。
志望者さんからのDM①
はじめまして。
⭐︎と申します。現在、漫画原作者○○先生のご指導を受けながら、漫画原作・シナリオの制作活動をしております。
先日、「行き詰まった漫画家志望のあなたへ」という記事を拝読いたしました。
(行き詰まった漫画家志望のあなたへ
大変興味深く読ませていただきました。
私は作画を担当する漫画家ではなく、主に漫画原作・シナリオを担当しているため、漫画家志望の方とはまた異なる難しさや、より高いハードルがあるようにも感じています。
以前、■■■■の編集者の方とご縁をいただき、■■■■にて商業連載を目指した漫画企画についてご相談を重ねておりました。
しかし最近、その編集者の方が退職されることになり、現時点では企画を別の編集者の方へ引き継いでいただける予定もないようです。
この状況には正直、落胆しております。
これまでは知人の紹介を通じて編集者の方と直接ご相談できる機会がありましたが、今後は既存のつながりがない状態で、改めて出版社へ作品を投稿し、一から活動を始めなければならない状況になってしまいました。
現段階では、すぐに連載を目指すのではなく、まずは読み切り作品を商業媒体に掲載していただくことを現実的な目標として考えています。
もし差し支えなければ、現在の状況を踏まえ、今後どのような行動を取るべきか、また漫画原作者として商業出版へ近づくために何を改善し、どのような経験を積むべきかについて、アドバイスをいただけましたら大変ありがたく存じます。
お忙しいところ長文をお読みいただき、誠にありがとうございます。
カメントツの返信①
まず最初に、現在ご指導を受けている○○先生のお話を、まっすぐ受け止めるのが一番大切だと思います!
漫画家志望の人は、たくさんの情報を集めたくなりますよね。私もそうでした!
でも、「船頭多くして船山に登る」という言葉があるように、あまりに多くの人の意見を取り入れすぎると、結局どこへ向かえばいいのか分からなくなってしまいます。
特に商業漫画のデビューや連載までの道筋というのは、⭐︎さんが思っているほど体系化されていません。
(商業漫画は誕生から100年未満の新しいメディアであるというのと、流行や時流を反映しやすいなど…様々な理由があります)
同じ編集部でも担当編集によって考え方は違いますし、漫画家同士でもアドバイスが食い違うことはよくあります。
だからこそ、身近に信頼できる現役のプロがいて、その方から継続して指導を受けられる環境は、とても恵まれています。まずは○○先生の言葉を軸に考えていいと思います。
そのうえで文章を読んでいて感じたのですが、今のご相談は「どうすればデビューできますか」というよりも、「今の状況は大丈夫なのでしょうか」という確認をしたいお気持ちなのではないでしょうか?
編集者さんが退職されると、不安になりますよね。
ただ、この業界では編集者の異動や退職は決して珍しいことではありません。引き継がれないケースも沢山あります。
大手出版社規模の会社なら3〜5年で部署異動やキャリアアップ(orダウン)が頻繁にあるものです。直接取引がない取引相手なら引き継がれないこともあるでしょう。
しかし、それは必ずしも作品や作者の評価を意味するものではありません。
ですので、そこは一度切り離して考えて大丈夫だと思います。そのうえで、私から一つだけお伝えするとしたら、
まずは企画数です。
原作者の方も漫画家と同じで、営業職的な部分も大いにあると私は考えています。
一つの企画が止まったら次の企画。
読み切りを一本作ったら次の読み切り。
試行回数を増やすことが、そのままチャンスにつながります。
企画を作り、市場を調べ、持ち込み、改善する。このサイクルを回し続けることは、作画家でも原作者でも変わりません。
今まで積み重ねてきた経験は決して無駄ではありませんので、一つのご縁が終わったことを必要以上に重く考えず、「次の企画を作る」という方向へエネルギーを向けるのが、一番建設的ではないかと思います。
応援しております。
志望者さんからの返信②
数ある悩みの中でも、もう一つ気になっていることがあります。
私の限られた知識では、漫画家はまず読み切り作品でデビューし、それが漫画雑誌やWEB漫画サイトに掲載されることが多いと認識しています。
現段階では、自分にとって比較的取り組みやすく、現実的な目標を設定したいと考えています。まずは完成した読み切り作品を一本制作し、それを掲載していただくことを目指したいです。
しかし、これまでやり取りをしてきた編集者の方々は、最初から商業連載を前提とした企画を作ることに、より関心を持っているように感じます。
もちろん、私自身も連載を目指すことに反対しているわけではありませんし、編集者の方々が連載の可能性を重視する理由も理解しています。ただ、最初から商業連載を目指して作品を企画・制作することには、少しハードルの高さを感じています。
そのため、まずは読み切り作品を制作し、掲載していただくことを当面の目標とする場合、何か別の方法や進むべき道はあるのでしょうか。
それとも、現在の漫画業界では、最初から連載を視野に入れて作品を作ることが一般的なのでしょうか。
カメントツの返信②
まず、おそらくあなたが思っているほど、漫画のデビューや商業化への道筋というのは固定化されたものではありません。皆さんが思っている以上に流動的です。
例えば料理人を目指す人を想像してみてください。
チェーン店でアルバイトから始める人もいれば、有名店に弟子入りする人もいます。家業を継ぐ人もいますし、SNSで料理動画を発信して人気が出て、お店を開く人もいます。
漫画家も料理人と同じで、どれが正解というわけではありませんよね?
大切なのは、「どうやって面白い作品を作り、それを世の中に届けるか」です。
なので、今担当されていた編集者さんが最初から連載企画を提案しているのであれば、それはおそらく、その編集者さんが「あなたにとってそのルートが一番可能性が高い」と判断しているからだと思います。
編集者さんも無料奉仕のつもりで企画を見ているわけではありません。面白い漫画を世に出し、それを売ることが仕事ですからね。
ですから、よっぽど意地悪な人でない限り、あなたのキャリアをわざわざ遠回りさせたり、不利になる道を勧めたりする理由は基本的にはありません。
もちろん、おっしゃる通り、「まず読み切りを掲載し、そこから連載へ進む」という流れは、昔からある最もスタンダードなデビューコースです。
ただ、それは言い換えれば、まだ編集部との接点がない人にとっての一般的な入口でもあります。
もし編集者さんが「読み切りを飛ばして、連載企画として考えたい」と言ってくださるのであれば、それは入口を一つ飛ばせる可能性があるということです。
もちろん、それが必ず成功するとは限りません。
ですが、チャンスがあるなら挑戦する価値は十分あると思います。実際、デビューの形は本当にさまざまです。例えば私も、持ち込みからデビューしたわけではありません。
Twitterに漫画を投稿し、それを読んでくださった編集者さんから声をかけていただき、商業デビューしました。
編集者さんから見れば、「すでに読者がいて、作品が評価されている」という安心材料があったので、企画を通しやすかったのだと思います。
つまり、「読み切りを載せてからデビュー」だけが正解ではありません。編集者さんが提案してくださるルートも一つの正解ですし、自分で読者を集めて声をかけてもらうのも一つの正解です。
漫画業界は思っている以上に流動的です。
ですから、「デビューの正しい順番」を探すよりも、「今、自分に与えられている一番可能性の高いルートは何か」という視点で考えてみると、少し気持ちが楽になるのではないかと思いますよ!
志望者さんからの返信③
もしよろしければ、現在制作している作品についてもご相談させてください。
現在、出版社へ持ち込んでいる作品は2本あり、そのうち一つは、自分でもかなり手応えを感じている企画です。
どちらにも一長一短があり、これまで時間をかけてきたため、どの選択をするのが良いのか判断できずにいます。
もしご興味を持っていただけましたら、一度ネームをご覧いただき、ご意見をいただけないでしょうか。
(ファイル添付のアドレス)
〜中略〜
その後、ご本人から現在制作しているネームも見せていただきました。
ネームの内容の詳しい内容を評価は割愛しますが率直な感想としては、「しっかり考えて作っているな」という印象でした。
特に良いと感じたのは、原作者志望でありながら文字だけのプロットで終わらせるのではなく、自ら絵を描ける方へ依頼し、お金を払ってネームという形まで作品を仕上げていたことです。
すごいですよね。なかなかいませんよほんと。えらい!
原作者志望の方の中には、アイデアやプロットだけを持って「誰か描いてくれませんか〜」と他力本願なスタンスで探し続ける方も少なくありません。
その点、ご自身でリスクを負い、作品を形にするために投資している姿勢は、とても評価できると思いました。
一方で、作品そのものについては気になる点もありました。
企画の軸になっている2つの要素の相性があまり良くなく、結果として主人公の魅力が伝わりにくくなっていました。
また、後述しますが、「自分をこんな作家だと思ってほしい」「こう評価されたい」という願望が前に出過ぎていて、それがノイズや雑味になってしまっていました。
これは構成が悪いというよりも、「どの題材を組み合わせて企画を作るか」という、もっと前の企画設計の段階に課題があるように感じたので、その辺りについて詳しくお伝えしました。
〜〜
カメントツの返信③
(漫画の感想と評価が終わり)一通りご相談をお受けしてきて、⭐︎さんの質問のスタンスに感じたことがあります。
突然ですが、私が大切にしていて何度も読み返す漫画に『G戦場ヘヴンズドア』という作品があります。
その中で、「漫画家にとって一番大切なものは何か」という問いに対し、ある人物が「人格」と答える場面があります。
私は、この言葉が本質を突いていると思っています。漫画は、人格で描くものです。
漫画という仕事は、人の気持ちを想像する仕事です。
悪役を描くなら、なぜその人はそうなったのかを考える。被害者を描くなら、その痛みを想像する。主人公だけでなく、脇役一人ひとりにも人生があると考える。
つまり、他者を理解しようとする姿勢そのものが、漫画家にとって非常に重要な能力なのです。
共感力、ホスピタリティ、謙虚さ。相手の立場に立って考えられること。私はそうした資質が、画力や構成力と同じくらい大切だと思っています。
その上で、今回のやり取りの中で少し気になったことがありました。
前回、前々回とお返事で、
・まずは企画数を増やすこと。
・指導していただいている○○先生のお話を軸に考えること。
・編集者さんの提案を一度信じてみること。
・多様なデビューの仕方
などの内容を書かせていただきました。
ですが、お返事では、その内容を受けて「やってみます」「考えてみます」という行動のお話ではなく、五月雨式の相談になっていました。質問が次へ次へと構成されているのです。
もちろん、不安なときほど誰かに判断を求めたくなる気持ちはよく分かります。
ただ、漫画家や原作者という仕事は、最終的には自分で判断し続ける仕事です。
相談することは大切ですが、相談相手を「思考の外部装置」にしてしまうと、自分で考え、決断する機会が少しずつ減ってしまいます。
編集者や先輩漫画家は「デビューさせてくれる人」「チャンスをくれる人」ではありません。「面白い作品を作るために、一緒に考える人」です。
だから、「どうすれば評価されるか」ではなく、「どうすればもっと面白くなるか」を軸に考えた方が、結果として商業デビューにも近づくと私は思っています。
自分のために時間を使ってくれた人、作品を読んでくれた人、力を貸してくれた人に対して、まず「やってみます」と伝えることは、とても大切なことです。
あなたのメールからは、端的に言えば『なりふりかまわず、とても焦っている』『誰でもいいから助けてほしい』…的な状態を感じました。
もちろん、そのような意図ではなかったのかもしれません。
しかし、人は文章から相手の姿勢を想像します。
そして、それは編集者や相談相手だけではありません。
読者も同じです。これは精神論やスピリチュアルな話ではありません。「他者への関心が深い人」ほど、人の心を動かす漫画を描く傾向があります。本当(マジ)です。
逆に、創作の中心が「自分はどう評価されるか」だけになってしまうと、登場人物も読者も、どこか「自分のための存在」として扱われやすくなります。
漫画は、他者を楽しませる仕事です。
だからこそ、他者を理解しようとする姿勢や、人への感謝、相手の立場を想像する力は、創作技術とは別のものではなく、『漫画家としての力』そのものだと私は考えています。
------------------返信終わり
まとめ
この後、⭐︎さんから「次々と質問を送っていることに気づかなかった」「返信に対する反応を返していなかったことに気づかなかった」「編集さんや○○先生にもしてたかも…」などと、驚きやスミマセン〜のリアクションをいただきました。よかった!
今後は、今回のやり取りを踏まえて、より一層モチベーション高く制作活動に向かわれるそうです。その言葉どおり、作品づくりを続けていってほしいと思います。
今回の相談を通して、あらためて考えたことがあります。
漫画家志望者や作家志望者から受ける相談の中には、本人にそのつもりがなくても、他者を少し軽く扱ってしまっているように見えるものがあります。
編集者や読者を「自分の問題を解決してくれる存在」「自分を評価してくれる存在」として見てしまうのです。
しかし、これは単純に、その人の性格が悪いという話でもありません。
なかなかデビューできない漫画家志望者や作家志望者は、長いあいだ、自分の作品を否定され続けているような状態に置かれます。
作品を送っても返事が来ない。持ち込んでも採用されない。賞に応募しても落選する。周囲の人間だけが先に進んでいく。
そういう状況が続けば、「自分を見てほしい」「評価してほしい」「早く結果がほしい」という欲求が強くなるのは、ある意味では当然です。
夢を追うということは、それだけ切実なことでもあります。
ただ、その切実さは、作家の中にある優しさや余裕を奪います。
これが漫画家志望者が陥るダークサイドです
相手が自分のために使ってくれた時間や労力よりも、次に何を教えてもらえるかが気になる。返事を受け取ったことへの反応よりも、まだ解決していない自分の問題の方が大きく見える焦りや願望…
そうして、「自分を見てほしい」という欲求ばかりが前に出るようになると、その姿勢は作品にも表れます。
読者を楽しませるための漫画ではなく、自分の努力を認めてもらうための漫画になってしまう。登場人物を描くことよりも、作者自身の痛みや正しさを証明することが優先されてしまう。そんなダークサイド漫画家志望者を何人も見てきました。
もちろん、欲望や心の闇は、無限のパワーにもなります。ダースベイダーもそう言っています。
「認められたい」「見返したい」「自分のことを分かってほしい」という感情から生まれる作品もあります。むしろ、そのような強い感情がなければ描けない漫画もあります。
問題は、その欲望をそのまま読者にぶつけてしまうことです。
読者は、作者を評価するために漫画を読むわけではありません。作者の努力に報いるためでも、夢を応援する義務があるからでもありません。
面白いものを読みたいから、漫画を読むのです。
読者を「自分を認めてくれる人」「自分の夢を支えてくれる人」「お金を払ってくれる人」としてだけ見るのではなく、まずは時間を使って作品を読んでくれる一人の人間として考える。
数字や反応だけを見て、その向こう側にいる人間の存在を忘れてしまうことです。
最近、作品を『IP』読者を『ユーザー』と言い換える機会が増えました。
その『ユーザー』は、仕事帰りの電車の中で読んでいる人かもしれないし、つらい一日の終わりに漫画を開いてくれた人かもしれません。
言葉としては合理的でも、その向こうには必ず血の通った人間がいます。
それを忘れないことは、とても大切だと思います。
これは漫画家志望者にも同じことが言えます。
編集者、先輩作家、そして読者。
誰もが「仕組み」ではありません。
それぞれが自分の人生を持ち、自分の時間を使って作品に関わってくれている人たちです。
だからこそ、その時間や労力に対する敬意は、忘れないでいてほしいと思います。
もちろん、相手の気持ちを考えすぎて何も言えなくなったり、過度に気を遣って創作そのものができなくなったりする必要はありません。創作には、ある種の図太さも必要です。
大切なのは、「相手を利用しないこと」ではなく、「利用する関係であっても、その相手が一人の人間であることを忘れないこと」です。
私は、その感覚は漫画を描く技術と同じくらい大切なものではないかと思っています。
自分の中にある焦りや欲望と、他者への想像力。そのバランスを取るのは、簡単なことではありません。
それでも、自分のために時間を使ってくれた人を、単なる便利な仕組みとして扱わないこと。読者を、評価や売上を与えてくれる存在としてだけ見ないこと。
これは漫画の技術以前に、長く作品を作っていくうえで大切なことだと思います。
ただし、今回の話とは別に、途中まで面倒を見ていた新人を、引き継ぎもなく放置してしまう編集者については、私もあまり感心しません。
事情はいろいろあるのでしょうが、せめて一言くらいは連絡してくれてもよくない!?〜うんち???と思います。
そういう編集者を、いつか売れたときに見返す、吠え面かかせるのもプロの漫画家になる楽しみの一つかもしれませんよ。
おっとダークサイドが出ましたね。
それでは、皆さん、頑張ってください!





