部署の間でウロウロしているだけの不審者
- 意識の高いビジネス界隈で「越境人材」がもてはやされています。部署や職種の壁を越えて横断的に価値を発揮する人材こそが、イノベーションの鍵だ、と。確かに響きはいい。憧れるのもわかります。しかし現場の実感として言わせてもらうと、「越境する前に、まずは自分の領分をちゃんとやれよ」と言いたくなるケースがあまりに多いのです
- 一番ダサいのが、あちこちのプロジェクト会議に顔を出している割に、「あれ、あの人いてもいなくても変わらなくね?」「結局あの人、何やってる人だっけ?」と後ろ指をさされるパターン。自部署の足場も固まっていないのに好奇心だけであちこちに首を突っ込むのは、越境でもなんでもありません。部署の間でウロウロしているだけの不審者です
- 「あ、それ面白そうですね、僕も噛ませてください」と言ってSlackチャンネルやプロジェクトの会議に入ってきたものの、実作業は一切せず、思いつきのアイデアだけ投下して去っていく。そんな人、皆さんの周りにもいらっしゃるのではないでしょうか
越境の難易度をナメている人が多すぎる
- 「他部署の人と仲良く話せる」「色々なことに興味がある」レベルで務まるポジションではありません。現場で求められる「越境」の実態は、もっと血なまぐさくてシビアなものです
- ①狂気的なタスクマネジメント能力。越境するということは、自分のメイン業務に加えて他領域のタスクも背負うということです。当然マルチタスクになります。自分の工数管理もできず、本業の納期も守れない人間が「ちょっと手伝いますよ」なんて顔を出すのは迷惑千万。自分の皿を空にしてから来い、という話です
- ②「こいつわかってるな」と思わせる多言語習得能力。職種が違えば、使っている「言語(プロトコル)」も「正義(KPI)」も違います。エンジニアに対して「もっとサクサク動くようにしといてください、この画面」なんて言えばキレられるし、営業に技術的負債の話ばかりしても通じない。「こいつなら話が通じる」と思われるレベルまで習熟する必要があります
- ③針の間を縫う繊細な根回し力。「まずA部長に仁義を通してから、Bチームの実務者に相談し、最後にC役員の承認を取る」みたいな、きめ細やかでドロドロした政治力が求められます。これができないと、ただ会議をかき回して決定を遅らせるだけの存在になります
議事録係から始めたPMが、1か月後に提案を一発で通した話
- あるPMのAさんは非エンジニアでしたが、遅延しているシステム開発プロジェクトの火消しのために急遽呼ばれました。彼がいきなり意見をバシバシ言ったかというと、全く違います。Aさんが最初にやったのは、開発定例会議の「議事録係」になることでした
- 1か月間、開発会議の隅で黙々と、しかし極めて正確なログを取り続けました。会議中に分からない単語を全てメモし、終わった直後に「今の〇〇という議論は、こういう理解で合っていますか?」とエンジニアに5分だけ確認する習慣を続けていました。この「知ろうとする姿勢」が、知識と同時に信頼を生んだのです
- 1か月が経つ頃にはエンジニア側も「Aさんの議事録はわかりやすい」「いつも面倒なログ取りをしてくれて助かる」と信頼を寄せるようになっていました。彼が初めて「ここの仕様、ビジネス側の要件とズレそうなので、こう調整しましょうか?」と発言したのは、その信頼残高が十分に溜まってからでした。当然、その提案は一発で通りました
信頼も知識もない状態でいきなり偉そうに「越境」しようとすると、異物として排除されます。まずは「地道だけど、誰もが助かる仕事」を粛々と丁寧にやり、周りに聞く耳を持ってもらうところから。
越境したいなら、この3つを地道にやること
- ①自分の部署の仕事をちゃんとこなし、1日1時間の余剰を作る。他部署に首を突っ込んでいるせいで本来の自部署の仕事がおざなりになっている人がよくいますが、これが一番周りからの信頼を無くします。ダラダラやっているメール返信や定型業務の時間を削り、1日1時間を捻り出す。その1時間を他部署への貢献に充てるのが基本動作です。自分の仕事がパンパンな状態での越境は、ただの自殺行為です
- ②地味だけど誰もが助かるタスクから拾う。派手なプロジェクトじゃなくていいし、むしろ地味な方がいい。他部署からの問い合わせ一次受け、定例会議のファシリテーションや議事録代行、散らかった共有ドキュメントの整理やWiki化、仕様書のビジネス翻訳。誰もが「面倒くさい」と思っていますが、誰かがやると確実に感謝される領域です。そうやって「あいつはこっちの言葉もわかるし、役に立つ」という認知を広げていきます
- ③軸足となる専門性を武器にする。ずっと地道なボール拾いだけやっていると「ただの便利屋あつかい」で終わってしまいます。先ほどのAさんは非エンジニアでしたが、プロジェクトマネジメントのプロフェッショナルとして一目置かれていました。何かのプロジェクトに声をかけていただいた際には「自分の専門性を使って価値発揮できるテーマか」を確認し、Noであれば丁重にお断りする。安請負いせずに、己が価値発揮できる領域に絞って越境する。この選球眼も大事なポイントです
まとめ
- 越境人材とは、目指して移動するものではなく、「自分の領分を極めた結果、その枠に収まりきらなくなって溢れ出した状態」を指すのだと思います
- もし今「今の部署つまんないな、もっと横断的な仕事がしたいな」と思っているなら、一度立ち止まって考えてみてもいいかもしれません。今の仕事で意図的に「余剰」を作り出せるのか?隣の部署のプロフェッショナルたちに対して、リスペクトを持って対話できる準備はできているか?
- それがまだなら、まずは目の前の仕事を効率化するところから始めてみるのがよいと思います。越境はそれからでもよいかと
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