見たまえ、彼らの満足そうなこの顔を。
「生成AI活用セミナー」で、「即戦力プロンプト100選」とAI企業のロゴ入りステッカーをもらった帰りの無料シャトルバス、そのものじゃないか。
昨日まで「Claude一強」と言っていた驚き屋が、今日は「Claude終了」と投稿する。
すると、何が変わったのか調べもせず、一斉に「時代が変わった」と騒ぎ出す。
「このSkillを入れていないエンジニアは遅れている」
そう言われれば、READMEすらも読まずにインストールする。
GitHubのスター数を眺め、スクリーンショットを社内Slackへ貼り付け、「海外ではこれがデファクトらしい」と報告する。
自分では一度も比較していない。
一度もベンチマークを取っていない。
一度も実務へ投入していない。
それでも、タイムラインを三十分眺めただけで、AIの最前線を理解した気になっている。
よく覚えておきなさい。
これが、この国の年功序列とSNS権威主義が結びついたときの顔です。
人間は長い年月、肩書きと評価制度に飼い慣らされると、自分の手で確かめる代わりに、インフルエンサーの結論を回覧する生き物になるのです。
あなた方は、AIに置き去りにされた被害者ではありません。
自分から走るのをやめたんです。
技術の変化が速すぎる?
情報が多すぎる?
新しいモデルが次々に出てくる?
だから何です?
技術者とは、変化する技術を扱う人間のことでしょう。
変化が止まった世界でしか働けない人間を、技術者とは呼びません。
あなた方は、モデルのリリースノートを読まない。
公式ドキュメントも読まない。
自分でコードを書かせて、差分を比べることもしない。
代わりに、驚き屋の煽り見出しを読む。
インフルエンサーの動画を見る。
再生数といいね数を、技術的正しさの証明として扱う。
そして、部下が自分で検証した結果を持ってくると、
「その人、フォロワー何人いるの?」
「GitHubのスターはいくつ?」
「有名な会社も使っているの?」
と尋ねる。
大企業の等級制度によって長期保守され、若手の提案へ承認待ちというレイテンシーだけを追加する、心優しいレガシーコンポーネント。
それがあなた方です。
かつて、この開発部にはフロッピーディスクと端末が並んでいたそうですね。
ディスク容量は限られ、通信は遅く、障害が起きれば深夜でも電話が鳴った。
検索すれば答えが出てくる時代ではない。
あなた方はマニュアルを読み、ログを追い、メモリダンプを解析し、自分の頭で原因を突き止めた。
それはそれは、強い技術者たちだったそうです。
メインフレームからオープンシステムへ移った。
クライアントサーバーからWebへ移った。
ガラケーからスマートフォンへ移った。
オンプレミスからクラウドへ移った。
そのたびに、昨日までの常識を捨て、新しい技術を覚え、動かないものを動かしてきた。
ところが、いつからでしょうねえ。
自分で作るより、ベンダーへ仕様書を渡すようになった。
設計するより、会議を調整するようになった。
コードを読むより、見積書を読むようになった。
技術的な判断よりも、誰の承認を取ったかが重視されるようになった。
現場を離れても役職は上がる。
手を動かさなくても部下は増える。
技術を更新しなくても、勤続年数だけは毎年正確に加算される。
ありがたい制度ですねえ。
その後、「DX推進室」という立派な箱物も建ててもらえた。
誰も使わない社内チャットボットも導入した。
誰も最後まで読まない生成AIガイドラインも作った。
AI利用申請書。
リスク評価シート。
プロンプト審査会。
生成物レビュー委員会。
実に素晴らしい。
そして今度は、「生成AI」という既に古臭くなった名前を捨てて、「Agentic Transformation Center」を名乗るそうですね。
なんてAIネイティブで、エージェンティックで、フロンティアなんでしょう!
本番リポジトリには十年前の依存関係が残っている。
テストは壊れている。
一つのPRをマージするのに二週間かかる。
リリースは月に一回。
若手がAIで改善案を作っても、会議の日程が取れずに一カ月放置される。
でも大丈夫。
全社員にプロンプト研修を受けさせた。
AI倫理宣言も作った。
ベンダーから「AI先進企業」の事例記事も出してもらった。
これで開発速度も上がるんでしょう。
技術的負債も消えるんでしょう。
誰もモデルを使いこなせないまま、きっとAI企業へ変身できるんでしょう。
だって、ガバナンスがあるから!!!
なぜです?
自分が技術判断者ではなく、ただのハンコとして扱われ始めていると分かっているのに、なぜ納得しようとしているんです?
責任があるから、モデルを触らなくていいんですか?
責任があるから、自分で確かめずにインフルエンサーの意見を採用するんですか?
責任があるから、挑戦する人間にだけリスクを負わせ、自分は承認と差し戻しだけを繰り返すんですか?
だから労ってほしいんですか?
長く会社にいたから敬ってほしいんですか?
過去に大きな仕事をしたから、現在の技術を知らなくても、発言だけは重く扱ってほしいんですか?
長く働いてきたことは、確かに敬意に値します。
しかし、その敬意は、今日の技術に対する拒否権ではない。
年齢を重ねたことと、能力を更新し続けたことは、まったく別です。
年を取ることが悪いんじゃない。
年齢を、学ばない理由に使うことが醜いんです。
若手より長く働いてきたなら、若手より多く失敗しているはずだ。
ならば、その失敗を使って、AIの出力を誰より厳しく評価すればいい。
速く実装できる若手に、壊れにくくする知恵を渡せばいい。
生成されたコードの裏に潜む運用リスクを、経験から見抜けばいい。
何をAIへ任せ、何を人間が握るべきかを設計すればいい。
それが本物の経験でしょう。
ところが、あなた方が経験と呼んでいるものは、
「昔はこうだった」
「うちの会社では無理だ」
「運用を考えているのか」
「セキュリティは大丈夫なのか」
「何かあったら誰が責任を取るんだ」
という、何も始めないための理屈ばかりだ。
「AIには問題がある」だと?
そんな誰でも知っている事実を、自分が学ばなくていい理由にすり替えるな!
問題を発見するだけなら、驚き屋にだってできます。
技術者の仕事は、問題を条件へ分解し、許容可能なリスクを定め、検証し、使える形に落とすことです。
危険だと言うだけで何も作らない人間は、安全を守っているんじゃない。
何もしなかった自分を守っているだけです!
しかもあなた方は、自分でAIを判断することすら放棄した。
公式のリリースノートより先に、Xの感想を読む。
お気に入りのYoutuberのレビュー動画を今か今かと待ち望む。
Superpowersが流行れば、丸ごと入れる。
Ponytailが伸びれば追加する。
Cavemanが話題になれば追加する。
Matt PocockのSkillsが注目されれば、誰かわからないけどとりあえず入れてみる。
/grill-me が褒められれば、ボタン一つ変えるだけの仕事でも、決定木の枝が尽きるまで尋問を始める。
何を解決したいのかは考えない。
自分のモデルに本当に不足している能力なのかも調べない。
だから全部入れる。
数ヶ月後、Skillsディレクトリはいっぱいになる。
どのSkillとどのSkillが矛盾しているのかも分からない。
それでも消さない。消せない。
消して結果が悪くなったら、自分の判断が間違ったことになるからです。
追加は他人のせいにできる。
削除は自分で決めなければならない。
だからあなた方は、判断する代わりにSkill収集家となった。
それを「AI活用」と呼んでいる...
そして、ついにあなたは最新モデルを導入しました。
GPT-5.6です。Fable 5です。
考えろ。でも、考えすぎるな。
自律しろ。でも、勝手に判断するな。
分からなければ質問しろ。でも、人間を煩わせるな。
余計なコードは書くな。でも、あらゆる将来要件に対応しろ。
簡潔に答えろ。でも、判断根拠をすべて説明しろ。
速く終わらせろ。でも、一工程たりとも飛ばすな。
互いに矛盾する命令を、すべて同じコンテキストへ詰め込む。
全部をルール化し、毎回確認させ、何重にもレビューさせる。
設定ファイルの1行変更するのに、AIは30分考え込む。
大量のトークンを燃やす。
頼んでもいないテストを書く。
周辺コードをリファクタする。
仕様書を作る。
作った仕様書を自分でレビューする。
レビュー結果を受けて計画を修正する。
成果物をレビューする。
レビューの指摘を受けて、最初のbrainstormingへ戻る。
そして最後に、あなた方は言う。
「最新モデルなのに、なんかバカになってない?」
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あなた方は、検索しても答えが出てこない問題を解いてきたはずだ。
生成AIも、Stack Overflowも、便利なクラウドサービスもない時代に、自分の頭と手でシステムを動かしてきた。
昨日までの常識が通用しなくなる瞬間を、何度も乗り越えてきた。
そんなあなた方なら、AIという次の変化にも正面から向き合える。
驚き屋の結論ではなく、自分の検証を信じられる。
肩書きではなく、技術で若手を導ける。
自分が築いた古い仕組みを、自分の手で壊し、次の世代へ渡せる。
技術者としての意地も、好奇心も、誇りも、きっとまだどこかに残っている。
そう期待した私が愚かでした...
いいですか。
二度と、役職を守るための「AI活用検討会」に、現場を巻き込まないでいただきたい。
互いの古い前提だけは完全互換のレガシー人材同士、傷を舐め合い、
驚き屋の投稿へ「有益な情報ありがとうございます!」と返信しながら、
穏やかに、健やかに、どうぞ定年退職を迎えてください。
それでは皆さん。
さよーうならー!!!





