「結局、人間は中学生の頃に夢中になっていたものに戻ってくる」という説が真実だと分かったのは、中学生の時にシンナーを吸って逮捕された同級生が、大人になってから覚醒剤で逮捕されたという噂を聞いた時だった。
「ヤンキーが少し更生したからってなんなんだ。ずっと真面目にやってきたやつの方が偉いじゃないか」と言う人がいるけど、わたしはあまりそうは思っていない。
勿論、やってきた悪さの度合いというものはあって、その度合いによってはわたしも絶対に許すことが出来ないけど、子供は自分で環境を選び取れないし、努力によって悪い環境から抜け出すのは並大抵のことではない。
他の人に同じ態度を強制するつもりはさらさらないけど、少なくともわたしに関しては、自分をいじめてきた相手にすら「負の連鎖を断ち切る為に頑張ったんだろうな~」と素直に思うし、今を見てあげる努力をしたい。あと、お前らはなんでもかんでもこち亀のスクショで喋らずに自分の口で喋れ。
そんなわたしですら「シンナーを吸っていたのを辞めた」という理由で、その同級生が卒業式で卒業生代表になり、スピーチの後、泣きながら湘南乃風の純恋歌を歌っていたときはドン引きした。シンナーを吸って、やめて、卒業式でパスタ作ったお前に一目惚れするのは流石に意味がわからないから。
「シンナーを吸っていたころは、不健康でした……」じゃないんだよ、なんだよその青汁のCMの対義語みたいなやつは。
「すいません、もう2度とシンナーは吸いません」と、ナチュラルにダジャレのようなことを言っていた同級生は、その言葉の通りシンナーをやめて大人になって覚醒剤に手を出した。あんま薬物でトンチしてくんな、最悪の一休さんがよ。
わたしの通っていた中学校は微妙に荒れていた。暴走族はいなかったけどシンナーを吸う人はいたし、集団でリンチをするようなことはなかったけど怪我しない程度の暴力沙汰はしょっちゅうあった。
謎に安全ピンをピアスにするのが突然大流行して、わたしは当時「ダッサいなぁ」と思っていたけど、今は「なんかシド・ヴィシャスみたいでイイっすね」とほんのちょっとだけ思う。椎名林檎になって、手錠かけてあげればよかった。
エネルギーの矛先が違っていたら彼らもミュージシャンになっていたのかもしれないけど、わたしの地元に届いていた音楽はロックでもパンクでもなくてヘキサゴンファミリーの曲だったから、誰も楽器に辿り着くことは出来なかった。
「ネットがあれば何でも知れる」と思っている人は多いけど、算数に触れたことがない人が急に数学について検索しだすわけがないように、ネットなんて世界中に繋がっているようであんまり繋がっていないってわたしは知っている。あの時代に、TSUTAYAとヴィレヴァンがなかったらわたしのサブカル人生は始まらずに終わってた。
そんな微妙に荒れている中学でもう1つ大流行していたのが「突然、後ろから人を押す」というシンプル過ぎるイタズラだった。ダチョウ倶楽部の熱湯風呂抜きだ。
そのイタズラは主にヤンキーの男子が行っていたのだけど、あらゆる人がターゲットになっていて、勿論わたしもその餌食となった。
ある日、休憩時間に廊下を歩いていると突然、後ろからトイレのある方へ強い力で押された。
わたしは持ち前の反射神経でトイレのドアに手をついたが、そのドアが外開きだった為、無念にもその手はトイレのドアを開くだけの役割を果たし、わたしの体はトイレの床にベチンと叩きつけられた。
あまりにも突然の出来事に瞬発的にムカついたわたしはすぐに起き上がって、ヤンキーのいる方を振り返り「何してんだよ!!」と怒鳴りつけた。
すると、ヘラヘラしていたヤンキーの顔色がどんどん変わり、ついには「そんなつもりじゃ……」と言いながら、号泣してしまった。怒号だけで他人を威圧できるのって、スーファミの幽遊白書の戸愚呂弟以来なんじゃないだろうか。

ちなみにこのゲームはめちゃくちゃ面白い
わたしは「なんで押した方が泣いてるんだよ……キモ……」とドン引きした。「なんで押した方が泣いてるんだよ……キモ……」と言ってしまっていたかもしれない。
しかし、ヤンキーは泣き続け、泣きながらわたしの方を指さした。その指がさす方を追ってみると、なんとわたしの左手薬指が外側に真っ直ぐ曲がっていた。
わっはっは、指が真横に……?
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!
一瞬何が起きているのかわからなかったが、とりあえず焦り散らかし、理解が追いついた瞬間、わたしも号泣してしまった。この瞬間だけを他の誰かが見たら、感動の再会を果たしたと思われることだろう。
ちなみにわたしはこのことがトラウマになっている為、基本的にすべてのドアをグーで押すことにしている。2人で泣きながら感動の再会はするし、手はグーだし、まったく、ドラえもんみたいでかわいいぜ。
一通り泣いたわたしは急に冷静になり「誰にも心配されてはいけない」と思い、左手薬指を右手で隠しながら保健室へ行くことにした。
しかし、わたしとヤンキーが廊下で号泣しているという異常な状態が先程まで存在した為、もう既に人が集まってしまっていて、すぐに指が折れたことが学校中に知れ渡った。
そして、気づいたらわたしを先頭に廊下を歩く、30人ぐらいの集団が出来あがっていた。白い巨塔じゃないんだから。
保健室へ辿り着いたわたしは、すぐにインパルス板倉さん似の若い女の先生に事情を説明した。ちなみにこれは褒め言葉である。インパルス板倉さんの女装はめちゃくちゃかわいいので。

インパルス板倉さんの女装はめちゃくちゃかわいいので
そして、指を実際に見せると保健室の先生は「これは……折れてるね……」と言った。流石にわかるって!!!
わたしの怪我のグロテスクさに集まった生徒たちは信じられないぐらいドン引きしていた。
生粋のピエロであるわたしは少しでもみんなの心が癒えて欲しいと思い「これじゃ結婚しても、指輪見せるのちょっとためらっちゃうよね笑」「フォークボール2個同時に投げれてちょっとお得かも笑」と薬指が真横に曲がった人間限定のジョークを言い続けたが、その場にいる全員が更に引いていくのを感じた。あの瞬間が人生で1番スベっていたかも知れない。
すぐさまタクシーで整形外科に連れて行かれた。当時、知識がなくて整形と言えば美容整形と思っていたわたしは「整形外科の守備範囲って広いな~」と思っていた。
タクシーで移動する間、保健室の先生は彼氏と電話していた。「生徒の指が真横に曲がった!これは彼氏と電話するチャンス!」じゃないんだよ。お前が小指に運命の赤い糸結んでる間に、こっちは薬指が赤い糸に干渉するぐらい折れてるんだ。
整形外科に入ると壁一面に有名なスポーツ選手のサインが飾ってあった。「あのーーーー、骨折治したついでで申し訳ないんですけど、サインいただけますか……?」とか言っているのかなと思うと、あり得なくて少し面白かった。
呼ばれて診察室に入ると、病院の先生に「これは……折れてるね……」と言われた。だから、わかるって!!!これで折れてなかったら奇跡のビジュだって!!!
「でも、綺麗に折れてるからラッキーだ!」とも言ってきた。あんた骨ばっかり治してないで、言葉選びなさいもっと。
そして、突然わたしの指を引っ張り、曲がった指を真っ直ぐに戻した。突然の出来事に「!?」という顔をしていると、病院の先生は嬉しそうにニヤニヤしていた。怖すぎてそれを見た瞬間、トリコの「ぞあっ」のシーンと全く同じ表情になった。
次の日から学校中の生徒がわたしに優しくなった。「骨折をしてみんなの注目を集める」というシチュエーションは意外と憧れるものだけど、実際自分の身に起こると「手あんま洗えてなくて臭いので、誰も近づかないでください」と思った。勉強がしづらくて成績が微妙に下がった。わたしに怪我を負わせたヤンキーは更生するどころか、そのことから逃げるように更にやさぐれてしまった。わたしの骨折によって、全員の人生がほんのりと悪くなった。後に、地元から出たわたしはヘキサゴンファミリーの循環から抜け出し、ロックンロールと出会ってエレキギターを手に取った。未だにその時の骨折の影響でちょっとだけ左手が動かしづらくて、その度に「あいつ……」とそのことを思い出す。
※僅かながらではありますが、被災地への寄付に協力させていただきました
https://x.com/Yahoo_JAPAN_PR/status/2082080075512750254
※すみません!お仕事なので、宣伝もします。
このエッセイは宣伝の為の書き下ろしです。最近発売した本の宣伝の為に、異常な量のエッセイを書き続けています。過去記事も読んでね!笑ってもらえたら嬉しい!
これの300倍ぐらいの時間をかけて書いたエッセイが、24本も収録されている本です。1人暮らしの話やバイト先の話やコーヒーの話も書いてるので、似た感じでウケることが出来ます!サブカルの話も、事前知識があまり必要ないように作っています!
ありがたいことに、重版しました!少しまでまで品切れ状態だったので今がチャンス!!沢山手にとっていただけると、ネットで載せているエッセイもすべて本になります。





